2020.09.10インタビュー
対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達 No.11】 平行秀氏(アドバイザーナビ株式会社代表取締役社長) 松岡隼士氏(アドバイザーナビ株式会社代表取締役) 「成長余地が大きいIFA業界の課題解決を目指す」
平行秀氏(アドバイザーナビ株式会社代表取締役社長)
松岡隼士氏(アドバイザーナビ株式会社代表取締役)
聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)
今、IFA業界が急速に拡大し始めています。既存の金融業界から独立してIFA(Independent Financial Advisor/独立系金融アドバイザー)を目指す人が増えるのと同時に、そうしたIFAにソリューションを提供する証券会社等の金融商品取引業者(=プラットフォーマー)も増えてきました。一方、このように業界全体が成長していくなかで、「成長痛」ともいうべき問題点も出てきています。今、IFA業界がどのような課題を抱え、どう解決の糸口を探しているのか。今回はIFAを対象にした総合コンサルティングサービスを提供しているアドバイザーナビ株式会社の平行秀代表取締役社長と、松岡隼士代表取締役にお話を伺いました。
左から松岡代表取締役、平代表取締役社長、大原
IFA支援はポテンシャルの高いビジネス
大原 今回は、アドバイザーナビ株式会社を立ち上げたお二人にお話を伺ってまいりたいと思います。アドバイザーナビ株式会社は、ひとことで言うとIFAのサポートビジネスを展開しているということですが、まずはお二人の自己紹介を兼ねつつ、会社を設立した経緯や事業内容について教えていただけますか。
平 新卒で野村證券に入社して、新宿と滋賀県大津の営業店で富裕層を担当しました。その後、海外トレーニー制度で1年間、ロンドンで勉強し、帰国してからさいたま支店に配属され、そこで起業を決意し、退職しました。
松岡 私は2012年に入社して、営業店2店舗と本社勤務です。本社では事業承継を担当し、主に各営業店のアドバイザーをサポートするという仕事をした後、退職してアドバイザーナビの創業に関わりました。
大原 お二人は同期ですか。
平 1年違いです。
大原 年次が違っていて、かつ配属も違うのに、どういう経緯で一緒に会社を立ち上げることになったのですか。
松岡 平と私は大学が同じで、国際金融史のゼミで平が私の先輩だったのです。幼馴染のようなもので、社会人になってからも支店は違いましたが、連絡を取り合っていました。それでいろいろ話をしているうちに、最近どうやらIFAがビジネスとして台頭してきていて、一方で急激な成長による課題も多い業界であるため、IFAのプラットホームになるようなビジネスを立ち上げてみよう、となったのです。
大原 IFAのプラットフォームというと、ひとことで言うとどのような事業を営まれているのでしょうか。
平 IFAを対象にした総合コンサルティングとして、IFAビジネスをサポートしています。
大原 これからIFAが伸びるという点は私も同じ意見なのですが、なぜご自身が営業担当者として優秀だったお二人が、IFAではなく、IFAを支援する仕事をしようと思ったのですか。
平 いくつか理由はあったのですが、IFA業界に関心をもち、色々なアドバイザーに会うことで、スキルの高さにびっくりしたんです。正直にいうと大手証券会社にいる時のイメージだと、単に「稼ぎたい人」のようなイメージだったのですが、全く異なり、金融のプロフェッショナルがたくさんいました。このような人達の取り組みが正確にステークホルダーに届く、というのが今の業界のフェーズにおいて必要と感じたのが理由です。
大原 ビジネスチャンスが大きいということですね。
平 金融の対面アドバイスの領域は課題が根深く多岐に渡っているぶん、圧倒的にポテンシャルが高いと思います。アメリカがゴールドラッシュに沸いた時、結局、何が一番儲かったのかというと、金の採掘会社よりも鉱夫が履くジーンズメーカーであるとか、スコップを作る会社であるとか、要は採掘そのものよりもその周辺を支えるビジネスでした。ですから、IFA業界という新しいフロンティアを支えるビジネスは、ハードルが高いながらも面白いのではないかと思ったのです。
IFA事業者の代表の悩みは人材確保
大原 お二人とも野村證券では将来を約束されたようなキャリアを積んで来られたわけですが、それを捨ててイチから新しいことを始めるにはかなりの勇気が必要だと思います。何がそのモチベーションになったのでしょうか。
松岡 証券会社が一番伸びた時って、世間では「株屋」と言われて、いささか蔑んで見られていた時でしたよね。ネット広告も今では超一流会社になりましたが、ITバブルの頃は、なんかちょっとパーティ好きな人たちが集まっている会社というイメージが強くて、やはり社会的な地位が低かった。それと同じことが今のIFAにも当てはまると思うのです。つまり、これからまだ伸びる余地が大きいので、出来上がった野村證券に居続けるよりも挑戦し甲斐があると考えました。
平 私は野村愛が強かったですし(今も強いです)、将来は役員まで行けるという自信もあったため、正直退職を決断するまでは抵抗が大きかったです。ただ、周りで野村證券を辞めていく人たちの話をいろいろ聞くなかで、徐々に独立を目指そうと考えるようになりました。
大原 ちなみにどちらから起業しようと言い出したのですか。
松岡 う~ん、どちらからともなくです。そうは言っても既存の大きな勢力、特に大手証券や一部のIFA事業者からの風向きが強くなることは想定できたので、そこに勇気を持ってチャレンジするなら今しかない、僕たちでやろうという感じでした。
大原 その、やってみようかという時にIFAもしくはIFAの周辺ビジネスを始めてみようということに対して、違和感は特に無かったのですか。
平 特に無かったです。
松岡 もう、普通にIFAの事業をやろうということになりました。
大原 野村證券からIFAを見ていた時と、実際に自分たちがIFA業界に飛び込んで、何かギャップのようなものは感じましたか。
松岡 質ですね。先ほども少し触れましたが、正直、お金を稼ぎたいというだけのやり手の証券営業出身者が集まっている業界だと思っていたのですが、実際に話をしてみると、覚悟という点でも、あるいは提案しているサービスにしても、驚くほど質が高かったのです。大手証券会社を凌駕するようなプレイヤーが大勢いたことに正直、驚かされました。
平 野村や大和、日興といった大手証券会社のなかで、「あの人、有名だよね」という人たちが出てきて戦う場ですね。IFA全体で見ると正直、玉石混合であることは否めない所もありますが、IFA事業者の代表は、証券業界のなかで知らない人はいないというレベルの人たちで、優秀な人たちが多いです。
大原 証券業界の営業担当者による「天下一武道会」みたいな感じでしょうか。
松岡 正直、自分たちはまだまだひよっこだなと思いました。自分たちは「金融マン」として頑張ってきたと思っていたのですが、単なる「営業マン」でしかなかったんだなということが分かり、それが衝撃的でした。
大原 でも、それだけ優秀な人たちがいるとなると、自分たちが「ああ、きっと困っているIFAが多いのだろうな」と思って参入したのに、「あれれ違う?」みたいな事業機会のギャップはありせんでしたか。
平 ありましたね。松岡と事業計画を策定していた時、多くのIFAが悩んでいることはお客様の開拓ではないか、お客様と出会う機会が少ないことではないかと考えて、IFAとお客様をマッチングさせるためのプラットホームを作ろうというところからスタートしました。ただ、いざ現場でリサーチをしてみると、IFAはお客様の開拓よりも、営業人材の確保が一番の悩みだということが分かりました。
松岡 金融アドバイザー事業は、属人性が非常に高いビジネスです。だから、事業者の課題が人材獲得と顧客獲得であり、なおかつ属人性の高いビジネスだとすると、人材獲得がイコール顧客獲得に近くなるわけです。だとすれば、やはり人材獲得の方が優先度は高いよねという仮説のもとに、人材獲得のビジネスをまずは展開することにしたのです。
IFA事業者の代表は経営者か、それともプレイヤーか
大原 IFA事業者が抱えている人材獲得に関する課題とはどのようなものですか。
平 人の部分を分解すると、人を採りたいという顕在化したニーズに加えて、人を採るための設計とか企業理念の策定といった、本質的に必要だけれども、なかなか理解されない部分があって、そこをどう理解していただくかという点が大きな課題だと思っています。
松岡 本質的に人材を確保したいと言いながら、なぜ人が入って来ないのかという点を突き詰めて考えていくと、何を目指しているのか、企業としての特色は何なのかという点が固まっていないIFA事業者がたくさんあります。そういうIFA事業者は、これからマーケットがどんどん大きくなっていった時に埋もれてしまう恐れがあります。では、なぜそこをしっかり考えないのかというと、IFA事業を営んでいる人の多くがプレイヤー兼務なのですね。だから経営者として企業理念などを策定するよりも、お客様の相手をすることに時間を割いているケースが多く見られます。だから、これからは人を採用するための制度設計ですとか、あるいは企業理念の策定といった部分が、非常に重要になっていくのではないかと思います。
大原 今後はどのようなビジネス領域への展開を考えていらっしゃるのですか。
平 先ほど申し上げたIFAとお客様をマッチングさせるビジネスを盛り上げていきたいと考えています。8月から投資家が自身のニーズに合うIFAを検索し、気に入ったIFAとやりとりできるオープンプラットホームサービスを開始しました。このサービスは、投資家、IFAともに無料であり、徐々に登録数が増加しています。また、今後は一定以上の金融資産を持つ投資家に対して、当社が自信を持ってお勧めできる、優秀なIFAをご紹介するという相対のサービスを展開していきます。
大原 優秀なIFAをリストアップしていくと、逆に優秀ではないIFAもリストアップされますよね。優秀なIFAを紹介する一方、御社のコンサルティングビジネスとしては、優秀ではないIFAが上顧客になる可能性もあるように思えるのですが、そこのバランスはどう考えますか。
松岡 そこはストレートに伝えます。こういう理由があるからご紹介できません。こういうところに紹介していますということをはっきり伝えます。
大原 フェアですね。今の状況だと20億円の金融資産を持ったお客様はご紹介できない。なぜならこういう理由があるからで、その課題を解決するためにはこうすれば良いのではないかと考えているので、お手伝いしますよというイメージでしょうか。
平 そうです。コンサルティングに関してはフィーも頂いておりませんしね。
大原 え、フィーを頂いていないんですか。それはなぜですか。
松岡 お客様に利益が上がって初めてフィーをいただくということを、すべての事業において基礎としているからです。入口でいただくという発想は最初からありませんでした。
平 お客様に紹介しにくいアドバイザーがいたとしたら、その人にコンサルティングをさせていただき、その方がスキルアップしてご紹介できるというステージに入り、お客様からフィーを戴いた時に、それを按分させていただくという仕組みです。
大原 この春にファイナンシャル・アドバイザー協会が出来ました。そういった公的な団体との役割分担についてはどのようにお考えでしょうか。
松岡 協会の創設は非常に良いことだと思います。理事や正会員で協会に参加されている皆さまは、IFAのトッププレイヤーばかりですし、業界共通のスタンダードを創るために動いています。一方でIFAには税理士法人や生保、証券といったように、さまざまな出自を持つIFAがいて、ここは非常に多様性のある部分です。だから私たちサードパーティーとしては、IFAと一括りにされがちですが、実は多様性がある業界なんだということを、世に広げていきたいと考えています。
本質的な優位性を考える必要性が高まる
大原 今、IFA事業者は証券会社出身が多いのですか。
平 IFA業界全体で4,000人と言われていますが、今、増えているのは大半が証券会社か、銀行のプライベートバンク部門の出身者です。弊社にも月100人くらいIFA業界への転職相談に見えられます。
大原 なぜ大手金融機関からIFAに転じる人が増えているのですか。
平 このコロナ禍で在宅勤務になり、キャリアについて考える機会が増えたからという意見が多いです。今後の自分のキャリアを考えた時、会社で役員にまで上り詰めていくのは恐らく違うだろうと。やはりお客様と真剣に向き合いたいとなった時、転勤もないのでIFAになろうと考える人は結構いらっしゃるのだと思います。
大原 これからのIFA業界の課題は何だとお考えですか。
平 インフラですね。そもそもプラットフォーマーによってコンプライアンスや注文方法などが、現状においてバラバラです。今後、プラットフォーマーの参入が増えていくでしょうから、ますます混乱して、例えばお客様の注文の取次ぎミスなどが増えるといったことも予想されます。その責任がIFAに行ってしまう。そうなると、IFAビジネスはリスクが高いと判断する人も出てくるので、そこをきちんと整備することが肝心だと思います。
松岡 優秀なIFAと優良なお客様に対して、プラットフォーマーが追い付いていないというのが現実だと思います。
大原 IFA業界のシステム面のインフラとナレッジベースの不備に対しては、弊社・日本資産運用基盤も強い問題意識を持っています。
平 野村證券だと朝、出社するとアナリストレポートが40ページ分くらいダウンロードできて、今日のマーケットの動きとか、決算企業の動向とか、一目で分かるようになっているのですが、IFAの場合、そこがまだまだ弱いですね。情報収集しようとしても属人性のところが大きくて、お客様に提供されるサービスの質にバラツキが出てしまいます。そこも課題のひとつですね。
松岡 情報収集も含めてちゃんと出来る人が優秀なIFAだともいえるのですが、一方で業界として向こう側にはお客様がいますから、知識習得がより簡単に出来るインフラを提供して、空いた時間をお客様のことを考えるのに使ってもらうという仕組みが出来ればいいですね。
大原 5年後、10年後のIFA業界はどうなっていると思いますか。また、そのなかでアドバイザーナビのポジションや付加価値がどうなると考えていらっしゃいますか。
松岡 今は大手証券からIFAの概念が確立し始めている時で、IFAは大手証券と比較してどうなんだというところで、転勤がないとか、お客様に寄り添えるといった点が注目されているわけですが、これは長く続かないでしょう。業界全体が次の段階に進んだ時には、そうしたIFAの特徴的なものは当たり前で、そのうえであなたの会社はどうなんですかという点が問われるようになると思います。つまり本質的なところで優位性を考える必要があるということです。
平 今は日本の外務員が約8万人いるのに対して、IFAはその5%でしかないわけですが、今後IFAの数が増えてくるとIFAの機能面で役割分担ですとか、対象顧客での役割分担が増えていくと思います。具体的にはマス向け、富裕層向け、超富裕層向けで戦略などが変わってきますので、それに応じて顧客満足度を上げていくことが求められます。そして第2段階では、外務員のうち20%がIFAという世界になり、お客様の個々のニーズに合わせて担当IFAを流動的に交換できるような仕組みが出来てくるでしょう。その時、私たちがプラットホームとして真ん中にいられるような存在になりたいと考えています。
大原 これから大きな成長が期待されるIFA業界において事業インフラとしてありたいというビジョンに強く共感します。今日はありがとうございました。
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