2021.02.15インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達 No.16】 ブロードマインド株式会社 取締役 大西新吾氏、 IFA事業部チーフコンサルタント 氏家大輔氏 「保険代理店のIFA事業参入を成功に導く理念と仕組み化」

大西新吾氏(ブロードマインド株式会社 取締役)
氏家大輔氏(ブロードマインド株式会社 IFA事業部チーフコンサルタント)
聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)

保険代理店からスタートし、今では金融商品仲介(IFA)事業、住宅ローン、不動産に至るまでさまざまな資産を取り扱うブロードマインド株式会社。保険代理店とIFA事業を兼営し、両事業を成長させ続けている代表的な成功事例といっても良いでしょう。その事業成長の秘けつは何なのか。同社取締役の大西新吾氏と、IFA事業部チーフコンサルタントの氏家大輔氏にお話を伺いました。

経験者よりも未経験者と理念を共有する

大原  ブロードマインド株式会社は、保険の乗り合い代理店として2002年に創業され、それ以降、順調に社業を拡大させて、今は保険代理店だけでなく金融商品仲介(IFA)事業、住宅ローンや不動産等も取り扱うなど、非常に幅広くビジネスを展開していらっしゃいます。今回は、同社取締役である大西新吾さん、そしてファイナンシャルコンサルティング本部IFA事業部のマネジャーでチーフコンサルタントの氏家大輔さんのお二方にご登場いただき、お話を伺ってまいります。まず、ブロードマインドの会社概要や提供しているサービス、企業理念について教えていただけますか。

大西  弊社は代表取締役の伊藤清が2002年に創業した会社で、現在の社員数は300名を超えました。伊藤はソニー生命のライフプランナーとして活動した後、独立してこの会社を立ち上げました。日本生命、アリコジャパン、ソニー生命、東京海上など生損保11社の乗り合い代理店としてスタ-トしています。現在は生命保険、損害保険の他に金融商品仲介業、住宅ローンも扱うようになり、おかげ様で年間の相談件数は約2万件、契約世帯数は6万1423件にまで成長してまいりました。また東京本社に加えて大阪、名古屋、福岡、金沢、四国というように、全国に支社を展開しております。

大原  大西さんはどういう経緯でブロードマインドに入社されたのですか。

大西  私は、実は以前、広告会社で働いていました。弊社はその時の営業先で、この会社のビジョンを伺って、「こういうプロモーションをやってみてはいかがでしょうか?」と提案したところ、逆に「その提案内容も良いのですが、せっかくですからうちに来て一緒に働きませんか!」と誘われて、マーケティングを担当することになったのです。

大原  その当時から未経験者採用をしていたのですね。

大西  そうです。やはり会社を大きくしていこうとするならば、経験者よりも未経験者の方たちと一緒に、理念を共有しながら働いた方が良いという経営方針が、当時からありました。もちろん経験者中心に採用した方が、ゼロから仕事の内容を教える必要がないので社員教育のコストがかかりませんし、即戦力になるのは事実ですが、なかなか定着していただけない面があります。この点、未経験者や新卒採用であれば私どもの理念を共有しやすいですし、ともに同じ目標を目指して歩んでいけます。

自由闊達に革新し続ける

大原  御社の理念を教えていただけますか

大西  ミッションとして掲げているのは「私たちは金融サービス業として革新を起こし続け、自分らしい未来を歩む人々が溢れる世界を創る」というものです。このミッションを完全に達成できたら、いつこの会社を解散しても良いというくらい、実現することが難しい課題です。

このミッションのなかで「革新を起こし続け」という部分があるのですが、これはなかなかにしんどいです。現在、年間で約2万件の見込み顧客をつくるための仕組み化、組織化を行っており、それが事業成長の秘訣であることは間違いありませんが、ずっと弊社の専売特許であり続けることはありません。どこかの段階で他社も同じことをやってくるでしょう。だからこそ、私たちは常にベンチャースピリッツを持つことによって、革新を起こし続け、新しい付加価値を生み出す活動を行っています。

そして、お客様が将来、自分らしい、こうなりたいという目標を達成できるように、お金の面のサポートをしていきます。少なくとも、「あの時、お金が無かったから子供に満足のいく教育を施すことができなかった」などと、お客様が後悔されることのないようにしたいと考えています。

大原  このミッションは創業時からあったのですか。

大西  あったのですが、社員が15名程度だった頃はコミュニケーションのなかで自然に理念共有が出来たので、明文化はしていませんでした。しかし、新卒採用の準備を始めた2009年には社員数が50名を超え、毎年10~20名ほどの採用を行い人数も増えてきたこともあり、明文化の必要性を感じるようになりました。

そこで、2014年の年初に役職者全員が集まって合宿をし、このミッションを作り上げました。それと共に、私たちが大事にするべきコア・バリューは何かを考えて、「革新」、「挑戦」、「貢献」、「成長」の4つを掲げ、順番付けをしました。つまり「革新」的であり続けるための「挑戦」を行い、お客様に「貢献」して会社も「成長」を遂げていくというものです。

大原  確かに、金融商品仲介業への参入や住宅ローンの取り扱い、新卒採用など、他の保険代理店には類を見ない、いずれも「革新」的な「挑戦」と感じます。

大西  社名のブロードマインドは「自由闊達」という意味です。伊藤はソニー生命出身ですが、その母体となっているソニー株式会社の前身である東京通信工業株式会社の設立趣意書には、「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」とあります。ここからブロードマインドという社名をいただきました。自由闊達で常に革新し続けるのが弊社のアイデンティティです。

金融商品仲介(IFA)事業は大きく伸びる

大原  2000年代といえば保険の手数料がかなり手厚かったと思います。それだけで十分に保険代理店としてのビジネスが成り立ったと思うのですが、それでも「革新」を掲げ、それを実行してきたのはなぜですか。

大西  保険をお勧めする際、まずはその人のライフプランを策定するのですが、するとどうしても住宅ローンや資産形成の話に触れざるを得ません。住宅ローンの負担が重いという方が結構いらっしゃるので、それなら住宅ローンも含めてライフプランに関わるお金の問題をすべて弊社で解決できるようにした方が、お客様の利便性も高まります。 そのため、保険だけでなく住宅ローンや資産形成の部分も含めて、ワンストップでサービスを提供できるようにしたのです。

大原  保険代理店の中には、御社と同じように金融商品仲介業の兼営を検討しているところもありますが、なかなか難しいという声も聞こえてきます。御社は兼営に際してどのような困難、課題がありましたか。

大西  正直、大きな困難を感じたことがないのですが、今は課題というよりも兼営の必要性を強く感じています。

ポイントは3つあって、第一はお客様がどれだけサービスにストレスを感じているかです。2006年に弊社に入社する際、保険は衰退産業ではないかと思ったこともあったのですが、お客様の不満が非常に高かったので、やり方によってはまだ伸びる余地があると思いました。それは今の証券ビジネスもそうで、信頼できるアドバイザーが見つからないということで不満を感じているお客様が大勢いらっしゃいます。だからこそ金融商品を取り扱う事業分野には伸びる余地があると考えています。

第二は普及率ですね。保険には8割方の人が加入していますが、証券などリスク性資産の普及率は4分の1程度です。リスク性資産は今後ますます必要になるものですから、その程度の普及率であれば今後、もっと普及していく可能性があると考えるべきでしょう。

第三は、保険代理店の方はライフプランの策定を得意としていますから、そのなかでこの投資信託が良いですよといった提案が出来ます。保険代理店だからこそ、金融商品仲介業を兼営する意味があるし、チャンスだと思っています。

大原  新卒採用で直面した困難などはありますか。

大西  やはり教育負荷が高いことでしょう。だから、この業界でも新卒採用に踏み切っているところはほとんどありません。ただ、実は新卒採用はそのデメリットを打ち消すほどのメリットがあります。理念を共有できるだけでなく離職率が低いのです。やはり保険代理店の離職率の高さがストレスになっているお客様は結構いらっしゃるので、離職率が低ければお客様の信頼につながります。

また当初は、お金を扱う仕事なので年齢が若いとお客様の信頼が得られないのではないかと思ったのですが、これもまったく逆で、新人の方が受注率が高かったりします。きっと一所懸命さがお客様の心を動かすのでしょう。

大原  新人の方々の受注率が高いのは、御社の組織力というか、仕組化する力の賜物ではないかと思うのですが、それも最初の頃から行われてきたのですか。

大西  私の入社が2006年だったのですが、その時にマーケティング本部を創設して、仕組化がスタートしました。ドラッカーではありませんが、まず大事なのは見込みのお客様ですので、マーケティング本部が見込みのお客様をどんどん作り、コンサルタントはコンサルティング業務に専念してもらうという形をつくりました。多くの保険代理店は、見込みのお客様づくりからコンサルティング、保全まで一気通貫に行いますが、弊社はそこを分業しています。マーケティング本部が、カード会社、通販会社、官公庁や職域など、お客様をたくさん持っているところに営業をかけて、弊社のサービスを提供しますよとお声がけしています。

富裕層よりもリテールに商機を見出す

大原  御社事業の柱は保険、金融商品、住宅ローン、不動産ですが、このなかで金融商品の位置づけはどのように考えれば良いのですか。

大西  この4本の柱はいずれも伸ばしていきますが、売上構成ではお客様のニーズでも保険が一番高いのは間違いありません。ただ、金融商品については無限の可能性があると考えています。超高齢社会のなかで、このままだと年金は厳しくなる一方なので、個人が自分で資産運用をするというニーズは、これから更に高まっていきます。その意味では、金融商品仲介業はまだまだ伸びると見ています。

大原  今、300名以上の社員がいらっしゃるなかで、金融商品仲介業の資格を持っているのは45名程度。その規模を少しずつ拡大されているとういことですが、今後、この分野への力の入れ具合や方針、課題をどう考えていらっしゃいますか。

氏家  私は2017年に異動でこの部署に来たのですが、当時は15~20名程度しかスタッフがおらず、会社のなかではマイノリティでした。したがって、まずは人員を増やさなければならないというところからスタートしたわけですが、実際にIFAとしての活動を行っていくなかで、お客様のニーズに応えるには、保険以外の金融商品にも精通しておく必要があることを実感しました。

保険しかできないのか、保険を含む金融商品全般にも精通しているのかによって、お客様からの信頼感が変わってきますし、お客様から他のお客様を紹介していただく時も、保険のプランナーを紹介するのか、保険以外の金融商品にも精通した人を紹介するのかでは、やはり大きな違いが出てきます。ですので、徐々にではありますが、IFA事業に携わる社員を増やしていきたいというのが弊社の考えです。

大原  だからといって証券会社出身者を積極的に採用していないという点が面白いと思いました。

氏家  IFAとしてのコンサルティングはゴールベースアプローチなので、マーケットで売ったり買ったりを繰り返しているような人はなかなか相いれない部分があるということです。

大原  リスク商品を扱っていながら、お客様からのクレームがほとんどないとお聞きしています。ちょっと驚いたのですが。

氏家  事前にリスクをしっかり説明するようにしていることと、長期、分散、積立投資を基本にしているので、短期的にマーケットが急落しても、クレームが来るようなことはありません。そもそも仕組債やレバレッジがかかるものなどリスクが極端に高いものを扱っていないことも、クレームのなさにつながっていると思います。

大原  以前、氏家さんは「お金の健康診断 」というFPサービスツールのことを「宝の山」とおっしゃっていました。それはどういう意味ですか。

氏家  「お金の健康診断」を活用してお金の悩み相談をされている方は、大半が富裕層以外の現役世代であり、保有している金融資産も、多くて1,000万円から1,500万円程度ではありますが、皆さん金融商品だけを持っているわけではなく、保険も加入するでしょうし、住宅ローンを借り入れたいという人も大勢いらっしゃいます。したがって金融商品以外のところで収益化できますし、20代前半で独身の方も、いずれは結婚して家を建て、保険に加入して、ということになりますから長期的に見ても収益化が可能だと思っています。

大原  今後の事業展開をどう考えていらっしゃいますか。

大西  既存の金融機関は、ターゲットをリテールから富裕層にシフトしようとしているので、今後リテールががら空きになってきます。でも、本当の意味で信頼できるアドバイザーを必要としているのは、実はこのリテール層です。したがって、非常に大きなチャンスが目の前にあると考えています。

一般生活者の皆さまに、弊社が取り組んでいる4本の柱はもちろんのこと、それに高齢者向けサービスとして家族信託やリバースモーゲージ、終活など、人生の最終局面まで安心して過ごしていただけるようなサービスを提供していきたいと思います。

大原  ありがとうございました。

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