2021.09.10インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達 No.21】 フィデリティ証券株式会社 執行役員 個人金融サービス本部長 久保田 誉氏 「『ロボ+ヒト』で提供する新しいアドバイスサービスの形」

久保田 誉氏(フィデリティ証券株式会社 執行役員 個人金融サービス本部長)
聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)

フィデリティ証券が新しい資産運用サービス「ザ・ハイブリッド」の提供を開始しました。最近、ロボアドバイザーが個人投資家の間でも人気を集めており、取り扱う証券会社などが増えてきましたが、フィデリティ証券が扱う「ザ・ハイブリッド」は、「ロボ+ヒト」がコンセプト。すべてをロボ任せにするのではなく、アドバイス担当者付きのサービスも展開しています。その狙いなどについて、フィデリティ証券の個人金融サービス本部長である久保田誉氏にお話をお聞きしました。

グローバル展開のサービスを日本にも導入

大原   足もと広がりつつある個人向け投資一任運用サービスをフィデリティ証券が提供するとこうなる、というひとつのケースだと思うのですが、サービスを開始して1カ月が過ぎ、お客様の反応はいかがでしょうか。

久保田  実際に利用して下さった方、これから利用を検討される方からもコメントが寄せられていますが、皆さまからの非常にご好評を頂いています。ただ、提供側からすると、機能面で追加していくべき部分もありますので、お客様のご要望などをお聞きしながら着実にアップグレードをしていきたいと考えています。

大原   このサービスは日本国内で考えられたものなのですか。

久保田  実は、フィデリティがグローバルで展開しているサービスであり、現在ドイツとイギリスで提供されているものを、日本向けに開発をしています。システムのエンジン部分はイギリスで管理されています。

大原   となると、日本でこのサービスを立ち上げるにあたっては、当然のことながらエンジンを管理しているイギリスなど海外との連携が必要になると思うのですが、実際に作業を進めている間はコロナ禍でしたよね。プロジェクトを進めるにあたってはフルリモートだったのですか。

久保田  そうです。昨年1月にプロジェクトがスタートして、3月上旬に海外のプロジェクトメンバーが来日する予定だったのですが、このコロナ禍で海外の渡航禁止になったため、実作業の大半はグローバルでリモートでした。その意味では、新しい働き方を体現するためのプロジェクトでしたが、同時に対面で、ホワイトボードを囲んでディスカッションすることの大切さも知りましたね。

大原   この「ザ・ハイブリッド」は、もともと海外で展開されていたサービスの仕様を参考にしたうえで、ゼロベースで日本向けにつくられたものと考えてよろしいですか。

久保田  ロボアドバイザーとコールセンターによるアドバイスを組み合わせた形のサービスは、北米地域で展開している「フィデリティ・パーソナライズド・プランニング&アドバイス」ですでに行われています。そして、今回、私たちがリリースした「ザ・ハイブリッド」のロボアドバイザー部分は、イギリスを拠点とするフィデリティ・インターナショナルが生み出したサービスです。

「ザ・ハイブリッド」は、フィデリティ・インターナショナルのロボアドバイザーに、北米で展開されている「パーソナライズド・プランニング&アドバイス」を参考に、人を介したアドバイザー業務を組み合わせたものであり、フィデリティ・インターナショナルとしては初の試みといっても良いでしょう。

「広義のアドバイス」を提供する

大原   このサービスのセールスポイントは何ですか。

久保田  商品性は従来のロボアドバイザーと、大手金融機関が展開しているアドバイス付きファンドラップの中間的なところを狙ったものです。

実際にロボアドバイザーやファンドラップを利用している人を対象にした調査[1]によると、多くの方がロボアドに対して、関心や期待とは裏腹に、「万が一の事態に対処できなさそう」、「アルゴリズムだけに頼る運用は信頼できない」など、ロボだけに任せることへの不安・不信感が持つことが垣間見えています。一方、金融機関の専門家に相談したい、アドバイスを受けたいという強いニーズはあるものの、投資家の皆様がアドバイスに対して期待している手数料率は1%以下と、我々が想定したものより低い水準でした。

この両者の不安と不満の解消を目指すのが、「ザ・ハイブリッド」の特徴で、2つのコースが用意されています。

両コースとも運用のベースにあるのはロボアドバイザーなのですが、ひとつめのコースは「ネット完結コース」で、自分の口座管理などは原則としてネットで行います。最低契約金額が1万円と少額でスタートでき、手数料は年率で0.97〜1.02%程度(投資対象ファンドの信託報酬等も含む。)です。

これに対して、もうひとつのコースは「アドバイス担当者付きコース」で、人間のアドバイザーがライフプランの相談を受けてくれて、運用プランまで提供してくれるものです。こちらは最低300万円からであり、手数料は年率で1.52〜1.57%程度(投資対象ファンドの信託報酬等も含む。)となっています。

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そして、フィデリティはもともとアクティブ運用を得意とする会社ですので、ロボアドバイザーもアクティブ運用を基本としています。かつ、投資対象の投資信託を通じて実質的に運用が行われる会社は、アセットクラスごとに超過収益を取れる可能性が高いとフィデリティが判断している外部の運用会社です。たとえば債券ならピムコ、新興国株式はゴールドマンサックスアセットマネジメント、日本株は三菱UFJ国際投信(2021年6月末現在)などですね。そしてフィデリティは、運用会社の目利きをさせていただくという形になっています。

大原   フィデリティというと投資信託のイメージが強いのですが、「パーソナライズド・プランニング&アドバイス」のような資産運用アドバイスサービスを展開した背景は何なのでしょうか。

久保田  資産運用についてアドバイスを受けたいという人は大勢いるのですが、アドバイスを提供する側で掛かるコストや提供できる規模・範囲に限りがあって、なかなか全員に資産運用アドバイスが行き届かない。これが「アドバイスギャップ」であり、それを解決するために、ロボアドバイザーというテクノロジーの活用が注目されるようになりました。

しかし、ある程度大きな資産を運用する人になると、すべての判断をロボアドバイザーに任せるのは不安だという意見が出てくるようになり、米国で人によるアドバイスを付加した「パーソナライズド・プランニング&アドバイス」というサービスにつながっていったのですが、それと同じニーズは日本にもあると思います。

「パーソナライズド・プランニング&アドバイス」と言うサービスのプランニング&アドバイスとは何かというと、ひとつは運用の部分で、ロボアドバイザーによるプロの運用は当然なのですが、これに加えて一対一のフィナンシャル・コーチングがあり、フレキシブルなフィナンシャルプランニングがあります。運用だけでなく、コーチングやプランニングも含めて広義のアドバイスであるという認識なのです。

これが北米におけるモデルであり、同じことを日本でも実現したいと考えているのですが、今回、私たちは「ザ・ハイブリッド」のサービスを、投資助言という形で提供しています。

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ここで問題になるのが、投資助言とは何ぞやということです。投資助言とは基本的に有価証券の価値が高いのか安いのか、これからどうなるのかということの分析に基づいた投資判断に対してアドバイスを行うためのライセンスです。だとすると、北米での「パーソナライズド・プランニング&アドバイス」が提供している、コーチングやプランニングも含めた広義のアドバイスを日本で実現するためには、投資助言のライセンスをどういう形で使えば良いのかということを、検討に検討を重ねてサービスの内容を決めさせていただきました。

我々としては、この投資助言のライセンスを使いながら、広義のアドバイスを提供するこのアドバイスのモデルを、このマーケットで広げていきたいと考えています。

[1] 資産運用に関する意識調査(2021年/フィデリティ証券)

設定したゴールの到達をサポートする

大原   北米での「パーソナライズド・プランニング&アドバイス」では具体的にどのようなアドバイスが提供されているのですか。

久保田  今、申し上げたコーチングとプランニング、そして投資に加えて、税金とキャッシュフローですね。税金は、日本の場合だと税理士の領域に入ってしまうので、なかなかこれを日本でも提供するのは難しいのですが、北米ではここをカバーするとともに、キャッシュフローについては、本当にそのお客様が、その投資を行うのに相応しいキャッシュフローを持っているのかどうかを診断します。

今、申し上げたプランニングやコーチングについては、日本だと無料で行われるものというイメージが強いのですが、こうした広義のアドバイスについてお客様がどれだけ価値を見出してくれるかがポイントです。

それで今回、私たちがこのサービスを投資助言で提供させてもらっているのは、もしお客様の側でこの広義のアドバイスに関するサービスに価値を見出していただけない場合、投資助言契約を外して、ベースであるロボアドバイザーの部分だけを利用できるという仕組みになっています。つまり運用の部分とアドバイスの部分を分離させることによって、お客様の選択肢の幅を広げているのです。

大原   今後、サービスのバリエーションを広げていく時に、フィデリティのアドバイス担当者だけでなく、外部のアドバイザーが助言を行うということもありえるのでしょうか。

久保田  助言の部分を別枠にすることによって、アドバイザーは我々で無くても良いという考え方も成り立つわけです。つまりベースのロボアドバイザーは我々のエンジンですが、アドバイスの部分は外部のアドバイザーにお願いするとか、店舗を持っている金融機関のアドバイザーに助言をしてもらうことも視野に入れています。

ただ、アドバイザーズ・アルファについては、実はあまりアピールしようとは考えておりません。運用アドバイスの巧拙によってリターンに差が生じるかどうかではなく、あくまでも資産運用のゴールを設定し、そのゴールに到達することについてコミットすることが重要であると考えています。何のためにゴールを設定したのか、そしてそれに到達できるかどうかを定期的にチェックしたうえで微調整を加えていく必要があると思います。

基本的に運用は自分の思い通りにいくものではありませんから、ゴールに到達する途中で運用が上手く行かなかった場合、何を微調整して、ゴールに到達できるようにするかをアドバイスすることの方が重要であり、それをサポートするのがアドバイザーだと考えています。

フィナンシャルアドバイザーの真価とは

大原   もちろん運用のためのロボアドの設計なども大事だとは思うのですが、それ以上に大事なのはアドバイスの質だと思います。そこについてはどのように考えていらっしゃいますか。

久保田  ライフプラン診断ツールは自社開発したもので、その中身には、フィデリティが今まで積み上げてきたものを活用しています。たとえば、フィデリティ退職・投資教育研究所で発表した退職準備の指標があって、そのエッセンスであるとか、北米での「パーソナライズド・プランニング&アドバイス」で使っているツールなどの良いところを参考に、日本の厚生年金支給額とか、給与所得の水準などのデータと掛け合わせて日本仕様にしています。

ただ、ツールだけだとなかなか良いアドバイスが出来ませんから、外部からのアドバイスやトレーニング、コンサルテーションを受けながら、アドバイスのジャーニーを創りこんでいます。

お客様からの評価は高いのではないかと思っています。と言いますのも、実際にアドバイスを受けて購入していただく際には、事前に1時間ほどアドバイザーがお客様と一緒にライフプランを見て、ゴール設定をしてポートフォリオを組むのですが、これまでアドバイスを受けた9割以上の方にご契約いただきました。

大原   さまざまなアドバイスツールがあって、どのようなアドバイザーでも、このツールを使えば一定水準以上のアドバイスが出来ますよなどと言われるものの、本当に信頼されているアドバイザーは、ツールを使わなくても信頼されるのではないかという、ある種の矛盾を感じることがあります。その点については、どのように考えていらっしゃいますか。

久保田  フィナンシャルアドバイザーの評価について、海外のフィデリティがアンケートを行ったことがあるのですが、フィナンシャルアドバイザーの評価は資格や専門性よりも、理解力やコミュニケーションなどの方が上位に来ています。

私たちのスタンスとしては、傾聴だとか、お客様に対する理解の方が大事なのではないかと思っていますが、基本的には両輪ですね。もちろん一定水準の知識は必要ですが、アドバイザーにはソフトスキルも大事であり、だからこそ立派なアドバイザーになるうえでは、資格や専門性が絶対に必要だとは言い切れないのではないかと思います。

大原   まさに今、地域銀行がゴールベースアプローチ型のラップサービスを導入しようとしていたり、北國銀行や千葉銀行が投資助言の子会社を立ち上げようとしていて、日本に広義のアドバイスビジネスが定着するように挑戦しているわけですが、このマーケットにはニーズやビジネスチャンスがあると思いますか。

久保田  間違いなくニーズはありますし、この部分を広げていかないと、例の「2000万円問題」でクローズアップされたように、将来不安がなかなか解消されないのだと思います。

あの金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書に書かれていた内容は、これからの高齢社会を見据えた資産形成、管理について非常に良いことが書かれていたにも関わらず、論点が「老後2000万円ないとまずい」、「でも、2000万円なんて持っていない」という話に矮小化されてしまいました。

それは、多くの人が将来不安を抱えているものの、不安の正体が何なのかよくわからないまま、もやもやしているからだと思います。

その将来分の問題を少しでも解決するためには、今の収入水準、将来受け取れる年金の水準などをプランニングすることで、将来を可視化することだと思います。そこには必ずニーズがありますし、アドバイスの重要性がこれからますます高まっていくでしょう。大きなチャレンジではありますが、同じ志を持つ金融の人たちと一緒に、その未来像を創っていきたいと願っています。

大原   ありがとうございました。

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