2025.01.01お知らせ

年頭のご挨拶

 2025年の新春を迎えるに当たり、我が国の金融・資産運用業界が今年取り組むべき経営課題について私の所感を申し述べ、年頭のご挨拶に代えさせていただきます。

 弊社・日本資産運用基盤グループは、「金融ビジネスの最適化」をミッションに掲げ、資産運用事業モデルの改革を通じ、金融業界の効率性・生産性の向上に資する「基盤」ソリューションの提供を行っていますが、昨年2024年は資産運用会社や証券会社、地域銀行といった資産運用ビジネスを営む金融機関が新たな事業モデルの転換に具体的に取り組むことを余儀なくするような事業環境の変化が大きく進んだ1年だったように感じます。

 昨年初からスタートした新NISA制度は、スタート前から高まっていた期待通りに一般生活者が投資・資産運用に取り組む後押しをする効果を大きく発揮しているように思われます。2023年末に岸田政権が策定・公表した「資産運用立国実現プラン」が掲げたビジョンの通り、インベストメントバリューチェーンを活性化させるための循環の入り口として巨額の家計金融資産を預金から投資・資産運用へと移動させる流れは、まだ十分に動き出したとは言えないにせよ、新NISA制度によって活性化の兆しが示されつつあります。この資金の流れがこれから更に加速していくことは大いに期待できるように思われ、この入り口の部分については、「資産運用立国実現プラン」は順調な第一歩目を踏み出したと言えるのではないでしょうか。

 一方、インベストメントバリューチェーンの入り口以外の部分については、従前からの懸念が現実のものとなり、好循環を生み出すにはやや先行き不透明な状況になってしまっているように思います。新NISA制度を通じて投資・資産運用へと動き出した家計金融資産の大部分が、国内金融市場ではなく、海外金融市場へと流出してしまっているということもありますが、投資信託の過度な低手数料競争等も相まって、好循環の担い手として期待される資産運用会社をはじめとする金融機関の収益にほとんど貢献せず、逆に新NISA制度へのシステム対応等によって収益性が悪化する金融機関も散見されるという状況は非常に残念なことだと感じます。

 投資・資産運用サービスの利用にかかる手数料が低下するのは利用者にとっては良いことだとは思いますが、インベストメントバリューチェーンの好循環によって金融機関も恩恵を受けるような状況が実現できないのであれば、その好循環は持続可能なものとはなり得ませんし、金融機関が利用者の長期的な資産運用をサポートすることもままなりません。金融業界における低手数料化の流れはグローバルで発生していることであり、その流れに逆らうのは非常に難しいことではありますが、せめて過度な手数料引き下げ競争を無思考に礼賛する風潮には歯止めをかけ、しっかりと商品・サービス付加価値を利用者に提供するのであれば、相応の手数料を金融機関が収受することは当然であるという認識を業界全体として改めて共有すべきではないでしょうか。

 そのうえで、個人向け資産運用サービスを提供する金融機関においては、自らの強みや存在価値にリソースを集中させるように事業モデルを見直すことで事業の生産性を高めるとともに、これまでにない新たな商品・サービス付加価値を創出する取り組みを進めるべきであると考えます。例えば、資産運用会社でいうと、ミドルバックオフィス業務の外部委託やファンドマネジメントカンパニーソリューションを用いた業態転換等を進め、事業の生産性を高めることが考えられます。また、新たな商品・サービス付加価値の創出としては、これまでのように公開資産のみを対象とした投資商品を運用・提供するのみならず、非公開資産を対象とした投資商品を開発・提供したり、投資運用付加価値のみならず、対面金融機関と連携したアドバイス付加価値を提供するために、ゴールベース型投資一任サービスの運用・提供に踏み出したりすることが考えられます。

 昨年秋にPayPayアセットが投資信託事業からの撤退と廃業を公表したことは業界を驚かせましたが、従来の商品・サービス付加価値がコモディティ化するとともに、手数料の低下が常態化するなかでは、中堅以下の規模の金融機関がこれまで通りのやり方で生き残ることは困難になりつつあります。資産運用会社や証券会社等の金融機関が生き残るためには、ドラスティックに事業モデルを改革する以外には手段はありません。さもなければ、事業撤退や廃業を迫られることはもはや非現実的なシナリオではありません。

 また、地域銀行にとっては、手数料の低下等による資産運用ビジネスの収益性悪化ということに加え、「金利のある世界」の到来も大きな事業環境の変化であることは間違いありません。従来の金利ビジネスの収益性が向上することが期待される環境では、収益性が低下しつつある個人向け資産運用ビジネスの位置づけをネガティブに見直す動きが広がるという見方も一部には存在します。ただ、足もと地域銀行の預金量の減少という形で表れつつあるように、金利というコモディティを主軸とする従来型事業モデルへの復帰は、地域銀行の将来を支えるものではありません。高金利や利便性で個人の預金資金を集めにかかっているオンライン金融機関や地域をまたがった相続資金の取り込みを強みとする大手金融機関に立ち向かうためには、地域銀行ならではのお客様との関係性を主軸に事業モデルを組み立てなければ、銀行の金利ビジネスの原材料である預金量の維持すらままなりません。金利が復活した今だからこそ、金利ビジネスに依存しない新たな事業モデルの構築が急務であると思われます。解はひとつではないでしょうが、弊社が以前より推進するゴールベース型資産運用サービスへの取り組みを通じた地域銀行ならではのお客様との関係性の強化は、とるべき打ち手のひとつであると考えています。

 今年2025年は、より流動的になる予測困難な事業環境のもと、従来型事業モデルや慣行からの脱却を進める動きが様々な場面でさらに具体化し、金融業界全体を飲み込んでいくことを予想しています。ここ数年は毎年同じことを申し上げており恐縮ですが、既存の金融機関の事業提携や統廃合等を通じた再編も進み、今後10‐20年の金融業界の勢力図を決定づける重要な1年となることは間違いないように思われます。そこでの鍵は「ビジョン」と「スピード」となります。丁寧な検討・議論で安定性を担保してきた金融機関の多くにとって、これら競争要素を前面に出した経営のかじ取りは容易ではないかもしれませんが、それができなければ生き残りすら叶わない環境です。いまほど金融機関の経営陣の手腕が試される厳しい局面はこれまでなかったように思います。

 弊社は、引き続き金融業界の資産運用事業支援プラットフォームとして、事業モデルの改革と成長に取り組む金融機関に対して、「基盤」ソリューションを提供してまいります。本年も何卒一層のご支援、ご指導を賜りますようお願い申し上げます。

2025年1月1日

株式会社日本資産運用基盤グループ

代表取締役社長   大原啓一