2018.10.30インタビュー

コンプライアンス・オフィサーの矜持。革新的金融サービスのための基盤構築を目指して

金融専門性の遍在や硬直的な事業運営構造という、金融業界の構造的問題の解決を目指す日本資産運用基盤株式会社。金融機関のコンプライアンス担当者として20年近くのキャリアをもつ、法務コンプライアンス部長の栃尾浩隆が、金融プロフェッショナルとしての想いや同社が目指すビジョンについて語ります。

高度専門性や機能の提供を通じて金融イノベーションを加速させる

▲オフィスが所在する日本橋兜町は栃尾にとって過去にも働いたことがある懐かしい場所です

日本資産運用基盤株式会社は、金融サービスに携わるすべての事業者に対して高度な金融専門性や機能・各種ソリューションを提供し、金融サービスの促進を目指しています。

栃尾    「日本の金融業界において、高度な金融専門性をもつ人材は東京の大手金融機関に集中しており、地域金融機関は専門人材不足に苦しんでいます。

また最近は、若年層を主要顧客としている小売、ゲーム、SNS、通信といった非金融事業者で、金融・資産運用ビジネスに参入する動きがあるのですが、やっぱり高度な金融専門性をもった人材が不足しているため、非常に苦労しているのが現状です。

そうした非金融セクターからの新規参入事業者に、高度な金融専門性や機能を柔軟にご利用いただくことによって、革新的な金融サービスが生まれる可能性がぐっと高まると私たちは考えています。

そうすることで、各事業者がそれぞれの強みや付加価値を生かしたサービス開発・提供に注力することができるからです」

「高度な金融専門性」の内容は実にさまざまです。ディーリングやポートフォリオ・マネジメント、ファイナンシャルプランニング、商品開発、リスクマネジメント、システム構築など、金融機関は高度に専門的な知識、スキルを有した者がそろうことによって、初めてその機能を果たします。

もちろん、栃尾が担当するコンプライアンスも、高度な金融専門性のひとつであるのは、言うまでもありません。

参入障壁となっているコンプライアンス専門性の不足

これからより一層、異業種から金融への新規参入が増えていくことが予想されます。

これまで、既存の銀行、証券会社の多くは、資産をもっている高齢者にフォーカスした営業を行なってきました。そのため、資産形成世代と呼ばれる20代、30代の個人のお客様に対して、十分な資産運用等のサービスが提供できていないのが現状です。

これから金融に新規参入を目指している非金融事業者の多くは、顧客基盤に資産形成世代を大勢抱えているため、金融・資産運用ビジネスに乗り出せば、既存の銀行、証券会社に比べて、よりリーチできる可能性が高まると考えられています。

しかし、高度な金融専門性をもった人材の不足により、人材充足の困難やコストが参入障壁となっているのです。

栃尾    「金融機関として名乗りを上げるには、まず金融商品取引業者等として登録する必要がありますが、これが非常に大変です。そもそもコンプライアンス担当者がいなければ、登録を申請することすら認められません。

たとえば、金融立国として知られるルクセンブルグやアイルランドなど、ヨーロッパ諸国では、コンプライアンスをはじめとする金融機関のさまざまな機能を外部の専門支援機関に委託するというスキームが一般的。自前で専門人材を抱えていなくても、事業をスムーズに立ち上げることが可能です。

しかしながら、日本の場合、そもそもの専門人材も不足していることに加え、そうした外部機関を活用した業務連携・分担スキームが一般的ではありません。

そのため、新しく金融ビジネスに参入する事業者は、自前で高い報酬を用意してコンプライアンス担当者を採用しなければならないんです。しかも、実際に事業がはじまるずっと以前の登録申請作業の段階から」

実はこうしたコンプライアンス人材の不足は、新規参入事業者のみならず、海外から日本に進出しようとする資産運用会社等にとっても深刻な参入障壁となっています。

栃尾    「香港やシンガポールに比べ、国際金融都市としての東京の地位が低下していると言われていますが、こうした人材面や事業運営面での障壁の存在も実は大きいと考えています」

コンプライアンスという仕事の魅力とは

▲代表の大原啓一とは、過去15年ほど一緒にさまざまな金融ビジネス・サービスの開発に携わってきた

コンプライアンス担当者というと、とにかく「あれをやってはいけない。これもやってはいけない」と、片っ端からダメ出しをし、現場は何も新しいことができず、イノベーションが進まなくなる、というイメージが先に立ちます。

ですが、栃尾は“攻めのコンプライアンス”が大切であるといいます。

栃尾    「攻めのコンプライアンスとは、最初から杓子定規に見てダメ出しをするのではなく、なるべく前向きに進められるように、問題をクリアするための提案をすることです。

たとえば、商品開発部から新しいサービスを立ち上げたいという相談があったとしましょう。このままだと、コンプライアンス上、問題があるので承諾できない。でも、この部分をこう変えれば問題が無くなるので承諾できますということは、結構あるんです。

コンプライアンスというと、石橋を叩いても渡らない、とにかく保守的というイメージが先に立つのですが、決してそうではないと思っています」

そして、その攻めのコンプライアンスに栃尾は魅力を感じているのです。

栃尾    「攻めのコンプライアンスを実行していくためには、極めてクリエイティブなセンスが求められます。自分の専門性や経験を最大限発揮する必要がある。金融プロフェッショナルとしての腕の見せどころです。

だからこそやりがいがあり、気がついたら自分のビジネスキャリアの大半を、コンプライアンス担当者として過ごしてきていたんです」

コンプライアンス担当者が金融イノベーションのカギを握る

クリエイティブなセンスは、若い人ほどもち合わせていると考える方が多いと思います。

しかし、多くの大手金融機関では、コンプライアンス担当者は役職定年者の上がりのポストと捉えられているのです。

実は、これが大きな間違いで、本当は若いうちからコンプライアンス担当者として人材を育成する必要があるのですが、現状、多くの金融機関でそうなっていないところに、金融コンプライアンスを取り巻く問題があると考えています。

栃尾    「私自身、若い時からさまざまな革新的な金融サービスの開発に携わり、コンプライアンス業務のクリエイティブな魅力に目覚めました。これから多くの新しい金融サービスが生まれていくなか、同じように『攻めのコンプライアンス』に面白さややりがいを見出してくれる専門人材が増えることを期待しています」

コンプライアンス・オフィサーとして長年の経験を積んできた栃尾は、これからの日本資産運用基盤の取り組みの先に、どのようなビジョンを描いているのでしょうか。

栃尾    「新しい金融サービスをつくるのはコンプライアンスだとさえ思っています。もちろん中心になるのは商品・サービス開発担当者ですが、彼らに思う存分、実力を発揮してもらうためには、クリエイティブなコンプライアンス担当者との二人三脚が重要になります。

また、コンプライアンス担当者は金融当局との折衝にも関わります。その意味では、ロジカルな思考能力と共に、コミュニケーション能力も求められます。

そのような能力を兼ね備えたコンプライアンス担当者が不足しており、それが異業種からの金融事業への参入障壁になっているのみならず、革新的な金融サービスの開発を妨げているとも懸念しています。

私たちは、クリエイターとしてのセンスをもったコンプライアンスチームとして、さまざまな金融事業者のサービス開発や事業立ち上げ、運営の支援を通じ、金融イノベーションを促進することに貢献したいと考えています」

日本資産運用基盤株式会社は、事業支援プラットフォームとして、クリエイティブなコンプライアンス専門性・機能の提供を通じ、革新的な金融サービス・ビジネスの開発と安定的な運営をサポートする存在でありたいと考えています。