2020.09.28インタビュー
対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達 No.12】 株式会社400F 代表取締役CEO 中村仁氏 「お金の悩みを検索ではなく出会いで解決する」
中村仁氏(株式会社400F 代表取締役CEO)
聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)
お金の悩みを抱えている個人は少なくありません。その内容も資産形成に限ったことではなく、どのような保険に加入すれば良いのか、ローンの負担を軽くするためにはどうすれば良いのかなど多岐にわたります。今回、お話を伺った株式会社400Fの中村仁CEOは、お金の悩みを抱えた個人と、それに応える金融のプロを繋げる橋渡し役として、さまざまなサービスを展開しています。
お金の専門家と相談者をマッチング
大原 今回、お話を伺う中村さんは、野村證券のご出身です。支店営業をトップセールスとして野村證券史上に残る記録を残された後、野村資本市場研究所のニューヨーク事務所で米国金融業界の研究、日本の金融機関への経営提言を行うなど活躍され、2016年にFinTechスタートアップ企業である「お金のデザイン」に転職。その代表取締役CEOを務めた後、その子会社だった400FをMBOして現在に至るというご経歴です。まず、400Fの事業内容から教えていただけますか。
中村 お金について何か悩みがあった時、多くの方はインターネットにキーワードを打ち込んで検索し、自分で何とか解決しようとするわけですが、それだとホームページ上に書かれている内容以上の情報は得られません。相談に見えられた方々の悩みは千差万別ですから、各ケースに応じて、より深い相談に対応するためには専門家の知見が必要になります。そうしたお金の専門家と相談者をマッチングさせるのが、400Fの主な業務内容になります。
大原 そのマッチングサービスが「お金の健康診断」なのですね。
中村 そうです。お金の悩みを抱えている個人がユーザーとして、このプラットホームに来れば、銀行、保険、証券、不動産、金融教育、債務整理というように、あらゆるお金の悩みを解決できます。対応は基本的にチャットで行っています。
一方、お金の相談に答えるアドバイザーからすれば、新しいお客様を獲得するルートになるのと同時に、チャットやZOOMなどを活用し、非対面でお客様であるユーザーとの接点を作るにはどうすれば良いのかを、私たちがOJTでサポートいたします。
大原 なんと、債務整理に関する相談もあるのですね。
中村 結構ありますよ。私たちは、お金の悩みを抱えた方がチャットで相談してきた時、その言語を分析し、今、お金に関してどんな悩みが多いのかを把握したうえで、それに関連する相談項目を新しく開設しています。たとえばあるポイント大手の会社に広告を載せた時は、そこから入ってきたお客様の中に「ローンが多くて大変です」という相談がたくさんあったので、債務整理という相談項目を載せました。
ギャップをテクノロジーの力で埋める
大原 ユーザーの年齢層や男女別ってどんな感じですか。
中村 メインは30代、40代ですね。男女比は半々。子供なしが6割弱で、子供ありが4割。子供ありのうち子供2人が最も多くて、世帯年収は600万円から700万円です。金融資産については100万円未満という方が多いのですが、なかには2,000万円という方もいらっしゃいます。質問内容は家計改善とライフプランが2大項目で、その後に資産運用、保険が続きます。
大原 アドバイザーの属性はいかがですか。
中村 私たちが言っているアドバイザーは、FPやIFAというこだわりは全く無くて、基本的にお金の専門家であれば何でも良いと考えています。したがってアドバイザーになりうるのは190万人の金融従事者であり、そこには銀行、証券、保険、IFA、保険代理店、FPなどが含まれています。
大原 400Fのミッションは「お金の悩みを検索ではなく出会いで解決」ということですが、そこに至った背景は何ですか。
中村 お金の悩みは個人が自分で解決するのが非常に難しいジャンルです。したがって、個人が何か金融的なアクションを起こすためには後押しが必要なのですが、その後押しをしてもらう場所がどこか分からなかったり、後押しをしてもらう場所に行くのが嫌だったりするわけです。特に後押ししてもらう場所に行くと、印鑑を押させられてしまうというイメージが非常に強い。別の言い方をすると怯えているのです。だから、もっと気軽に解決できる場所をつくりたいと思ったのです。
大原 今までインターネット上での悩み解決のための検索サービスというと、例えば「Yahoo!知恵袋」のようなサービスがあったと思うのですが、イメージとしてはそれに近いものですか。
中村 検索は自己解決をするものですよね。たとえば資産運用をしたいと考えて「資産運用」というキーワードで検索した時、iDeCoやNISAが検索項目に引っ掛かってきたら、そこで知識を得て実際にインターネット証券会社で口座を開くという流れになると思うのですが、iDeCoにしてもNISAにしても普及度を見るとまだまだです。それに口座を開いても、ちゃんと運用している人がこれまた少ない。その理由は、自分で調べて運用するのが難しいからです。しかも、お金について興味を持って検索してきたユーザーが、自ら金融機関の窓口に出向いて相談するかというと、なかなか具体的なアクションにつながりません。何も知らない人たちにとって金融機関は恐怖以外の何者でもないからです。このギャップを、テクノロジーの力によって埋められればと考えています。
お客様の背景や考え方をまとめて整理する
大原 出会いに付加価値があると思った背景は何ですか。
中村 前職のお金のデザインに入社する前からネット完結ビジネスは難しいと思っていました。それは、野村資本市場研究所のニューヨーク事務所で2008年から2010年まで米国のリテール金融を調査し、帰国後3年間、営業企画部で競合他社分析をしていた時に確信へと変わりました。インターネット証券会社は口座数で野村證券を超えたものの、預り資産の額は所詮10分の1以下でしかありませんし、2011年にインターネット証券会社4社が共同で「資産倍増プロジェクト」を立ち上げたものの、見事に失敗しました。いかにインターネット完結型ビジネスが難しいかということです。
では、インターネット完結型ビジネスで成功する道はないのかということですが、私が当時考えていたのは、圧倒的なユーザー網を持ったところが成功するだろうということです。たとえばカルチュア・コンビニエンス・クラブや楽天グループ、セブンイレブンがそれで、現実に今、異業種が金融ビジネスに参入してきています。
また米国のロボアドを見ても、裏側でそっと人間のサポートを入れていますし、インターネット証券で一時代を築いたチャールズ・シュワブも、一時期は凋落していましたが、そこから復活したのはインターネット証券の機能を独立系のファイナンシャルアドバイザーたちに開放したからです。あの米国でさえ、金融ビジネスは人が大事だという結論に達しました。そういう事例からも、インターネット環境と人をどう組み合わせるのかという点が大事だと考えています。
大原 アドバイザーについてはIFAでもFPでも拘らないということをおっしゃいましたが、そうなると大手証券会社に所属している人がアドバイザーとしてユーザーの相談に乗ることもありうるということですか。
中村 はい。正直なところを申しますと、IFAの中には非常に突出した優秀な方がいらっしゃる一方、業界平均的に見ると、やはりIFAよりも大手証券会社の方が優秀な人材がいらっしゃいます。
ただ、残念ながら大手証券会社に対するお客様のイメージが悪いため、なかなか窓口まで行って相談しようとする人がいない。ただそのギャップは、テクノロジーで埋められると思っています。
大原 アドバイザーを対象にした非対面営業のOJTをやっていらっしゃるのは、IFAのクオリティを高めたいという問題意識があるからですか。
中村 そうです。金融資産で10億円以上の方を除けば、お客様に提示するソリューションは定型的なもので十分です。
しかし、だからといって単なるソリューション営業をしてもお客様は動きません。たとえばM&Aや自社株承継、ポートフォリオ運用などは、インターネットで調べればある程度、誰にでも理解できることです。
それでは、人が介在する意味がどこにあるのかというと、お客様の背景や考え方をまとめて整理したうえで、どういう落としどころを見つけていくのかという役回りだと思います。たとえば法律だけを伝えるなら六法全書を読めば済む話ですが、弁護士という人間が介在する意味は、あらゆることを整理して、それがどういう法律に適合するのかを考えたうえで弁護するからです。
お金のアドバイザーもそうあるべきだと思うのですが、情報が浸透し過ぎているばかりにたとえばSMAはどうですか、ファンドラップはどうですかというように、ソリューションだけを提供しがちです。
でも、お客様の側は常にそういう営業を受けているので、そんなことは百も承知なのですが、お客様の背景をちゃんと整理してアプローチをすれば、確実に成果へとつながります。
特に証券会社の営業の現場やマネジメントを見ていると、体系立てたアドバイスの仕方とか、フレームワークを使った目標設定の方法などを考えている人がほとんどいません。結果、営業をするにしても我流、あるいは場当たり的になってしまい、ノウハウとして蓄積されていない状態です。なので、そのフレームワークをきちっと組み立てて、テクノロジーでアップデートするという試みを今、行っているところです。
私たちが提供しているのは、表向きはお客様と金融専門家とのマッチングツールですが、それだけではなく、お客様との接し方をどう変えていくべきかを啓蒙しているのと同じです。そこについて大手金融機関は、「それは今までもやっていた」とおっしゃるのかも知れませんが、私自身は不十分だと思いますし、実際に結果が出ているならもっと変わっていると思います。つまり現状は何も変わっていないわけですから、大手金融機関も徐々に我々のところに来るのではないかと思っています。
人を集めるノウハウに強み
大原 ユーザーは、何がしかの金融サービスを受けるうえでオンラインによる接点を求めていますか。
中村 ユーザーについてはかなり深堀したインタビューを行っていて、なぜ私たちのサービスにたどり着いたのか、そもそもそれ以前にどのような家計状況で、どういうライフプランをたどってきたのか、なぜ今まで私たちのようなサービスを使っていなかったのかを聞いています。
よく金融業界が「中立的なサービス、包括的なサービスを提供します」と言いますが、そこに関心のあるユーザーはごく一部です。それよりも、どうしたらいいのか分からない、自分の状況が分からない、どこに相談すれば良いのか分からない、といった漠然とした疑問が大半です。そういう方が大勢いらっしゃるので、まずはそこの課題を解決しなければなりません。
こうした漠然とした疑問を持っている人たちは、ショッピングモールに入っている保険ショップにすら入りにくいとおっしゃいます。何も分からない状態でそういうところに入るのが怖いのです。つまりお金の相談をする前に覚悟を決めなければならないというイメージを強く持っていらっしゃいます。したがって、その部分をオンライン化すれば、ユーザー側が嫌だと思ったらチャットを切断してしまえば良いだけですから、気軽に相談できるようになるはずです。
これは、ユーザーからすれば非常に便利ですし、逆にアドバイザーからすれば、もっと自分のアドバイスの質を向上させるとか、お客様に寄り添うということをしないと、いとも簡単にユーザーから見捨てられてしまいます。その意味でも、アドバイザーの質を向上させていく必要はありますし、恐らくあと5年もすれば、個人がお金の相談をするために、金融機関の窓口に行くことは無くなると思います。
大原 御社のビジネス規模が拡大していった時、競合が参入してくると思いますが、どこに強みを持たせようとお考えですか。
中村 このビジネスは参入障壁が低いのは事実です。免許が必要というわけではありませんし、アドバイザーもお客様を紹介してくれるところであれば複数業者に登録するでしょう。だから将来的にはサービスが乱立することも考えられます。
ただ一方で、比較サイトや弁護士どっとこむ、医者であればエムスリーなどがあって、それらが圧倒的な勝者になっている理由、勝ち筋などを見ていくと、重要なのはスピードです。したがって私たちはお客様の理解のスピード、お客様に対して何を提供するのかのスピード、お客様とプランナーの両方を増やしていくスピードを上げていくことによって、差別化を図っていきます。
そもそも「お金の相談をオンラインでできますよ」というシステムは、作ろうと思ったら1週間で作れます。でも、何よりも大変なのは人を集めることです。お金の相談を持ち掛けるユーザー、その相談に答えるアドバイザーの両方をどんどん増やす必要があるのですが、そんなに簡単なことではありません。一見すると地味なことではありますが、ここにはノウハウが必要なので、同業他社が増えたとしても、そう簡単に追いつかれるとは思っていません。
大原 中期的な事業目標はいかがですか。
中村 売上100億円以上で、かつ株価も評価されている企業を見ると、単一事業で伸びているところがほとんどありません。私たち、マッチングアプリという観点から言うと、ユーザーとプランナーに徹底的にフォーカスして大きくしたら、他の事業機会はいくらでもあると思っています。
したがって第一にユーザーとプランナーをどれだけ増やすかをやりつつ、そこに対していろいろな事業をシナジーがあるなかで、かつリソースを延長線上で使えるところを増やして、規模的に大きくしていくのが理想形だと思います。
大原 ありがとうございました。
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