2021.06.24インタビュー

対談連載【金融ビジネス/最前線の変革者達 No.19】 STOCK POINT株式会社 代表取締役 土屋清美氏 「金融マーケティングの“見えざる革命”」

土屋清美氏(STOCK POINT株式会社 代表取締役)
聞き手:大原啓一(株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長)

最近、「ポイント投資」や「ポイント運用」という新たなサービスが注目されています。ポイントをお金に変えなくてもポイントのままで株式やETFで運用することによって、投資先の株価が値上がりすればポイントそのものを増やせる、というサービスです。この仕組みを世界に先んじて開発したのが、STOCK POINT株式会社です。その代表取締役である土屋清美氏に、これから目指す世界観などを伺いました。

「StockPoint」の利用者は31万人超

大原  まず、会社とサービスのご紹介として、STOCK POINT 株式会社という会社が何をしているのか、ということから説明していただけますか。

土屋  株価連動型のポイント運用システムを開発し、それをさまざまな企業と連携して、大勢の消費者にポイント運用サービスを提供しています。

世の中で多く流通している流通系や小売系のポイントサービスは、たとえばお買い物をする、サービスの提供を受けるなどによってポイントが加算されますが、逆に何も買わなければ1ポイントたりとも加算されませんし、持っているポイントに金利が付いて増えることもありません。

私どもが提供しているStockPoint(ストックポイント)は、「STOCK=株」の値動きにポイントが連動します。したがって株価が上昇すれば、ポイントを持っているだけで株価に連動してポイントが増えていきます。ポイントのままで投資・運用ができるサービスです。

現在、2つのSTOCK POINTを運営しています。ひとつはオリジナルの「StockPoint」、もうひとつは「StockPoint for CONNECT」です。両者も基本的なサービス内容は同じですが、StockPoint for CONNECTは大和証券グループのスマホ専用証券会社である株式会社CONNECT向けにリリースしているサービスです。

オリジナルのStockPointで説明しますと、ドットマネー、永久不滅ポイント、MI(三越伊勢丹) POINTというポイントサイト経由あるいはクレジットカードで得たポイントをStockPointにチャージして、株式やETFに投資します。これらへの投資によってポイントを増やすという部分については、証券会社に口座を開く必要もないので、投資に対するハードルが格段に下がります。

大原  利用者数はどのくらいになりましたか。

土屋  31万人を超えました。ポイント投資に対する認知度も徐々に高まってきていることを実感しています。

大原  なぜこのサービスを思いついたのですか。金融業界には非常に大勢の人が働いているのですが、ポイントを使って投資をするというアイデアに到達できた人間は1人もいませんでした。

土屋  銀行が投資信託を扱うようになったり、NISAやiDeCoなどの投資非課税措置が設けられたりしましたが、なかなか投資のすそ野が広がらず、それは金融機関にとって悩みのひとつでした。

そこで、なぜ投資が広まらないのか、何がハードルになっているのかをいろいろ考えてみました。面倒くさい、難しいからわからない、騙されそうなど、いくつかの理由が挙がったのですが、なかでも大きい理由は、「損をするのが怖い」ということでした。

その問題をクリアするにはどうすれば良いのか。いろいろ考えた末に浮かんだが「投資金額を小さくする」ことでした。最初はワンコイン証券で、それこそ100円から株式投資できるという仕組みを考えたのですが、いっそのことお金をかけずに投資できるようにしたらどうだろうということで思いついたのが、ポイント運用サービスだったのです。

「StockPoint」事業化に向けての苦労

大原  斬新なアイデアは、それを広げようとしてもなかなか普通の人に理解してもらえず、苦労することもありますが、いかがでしたか。

土屋  STOCK POINT株式会社を立ち上げたのが2016年で、ようやくここに来てビジネスが広がり始めてきましたから、かれこれ5年の歳月を要しています。

自画自賛をするつもりはありませんが、ビジネスアイデア自体は面白いと思います。ただ、ポイント運用についてさまざまなところで一所懸命に説いても、「へえ、面白いね」で終わってしまうことがしばしばありました。それは、私自身にこのサービスを通じて実現されるメリットを訴える力が無かったからだと思います。

ビジネスを成功させるには、アイデアだけでは駄目で、粘り強く続けていく執念深さ、粘着質的なところが必要です。スタートアップは本当にたくさんの壁にぶつかりますが、その壁を乗り越えられるかどうかは、ひとえにこの部分に掛かっていると思います。

大原  ビジネスをここまで育てるうえで苦労したことは何ですか。

土屋  やはり事業化するまでの過程ですね。アイデアが良かったとしても、それをどうやってビジネスとして回していくのか、どこから収益を得れば良いのかを考えるのが大変でした。

最初は利用者から手数料をいただくことを考えたのですが、お金を使わずに投資をしようと考えている人から手数料をいただくのは難しい。次に考えたのが広告モデルでしたが、サイトにベタベタと広告を貼るのも違う。最後にたどりついたのが、ポイントサービスを用いて消費者にリーチしたい企業があるはずなので、その仲立ちをするBtoBモデルでした。そこにたどり着いたのがこの2年くらいで、今はもっぱらB向けの営業を中心に展開しています。

大原  STOCK POINTのサービスに興味を持つ企業は2種類あると思います。ひとつは証券会社を中心とする金融機関。それともうひとつは自社商品やサービスへのファンを増やしたいと考えている企業です。後者は金融機関に限ったものではなく、さまざまな事業会社が対象に入ってきますが、そこへの展開は今後、どのように考えていますか。

土屋  最初、STOCK POINTを立ち上げた時は、ファンマーケティングに根差したサービスの提供を考えていました。しかし、それがなかなか刺さらず、ここに来てようやくファンマーケティングに対する企業側の関心が高まってきていると思います。もともと弊社のミッションのひとつとして、「企業のファンをつくる」ことを挙げているので、ロイヤリティ・プログラムはスタートさせていきます。今年度中には新しい動きを、お見せできるのではないでしょうか。

金融機関の意外な弱点

大原  ピーター・ドラッカーは「見えざる革命 」という著書で、かつて米国の企業といえば一部の大金持ちが資本を握って、オーナーとして権力を振るったのが、1980年代以降は巨大化した年金基金が運用資産の一部を株式に投資したため、市井の労働者が企業のオーナーになりつつあるということを書いていて、私はそれを読んだ時、本当に目から鱗だったのですが、土屋さんのチャレンジもそれに近いもの、更にいうと新たな「見えざる革命」の実現が間近に迫っていることを感じました。ポイント投資を通じて、いつの間にか一般生活者が企業オーナーになる時代が、すぐそこまで来ている。

 実は、インタビューから逸れますが、私はこのStock Pointサービスを最初に見た時、「これは資本主義社会を次に発展させる新たな『見えざる革命』だ」と興奮し、土屋社長のところに押しかけ、無理やり「公式アンバサダー1号」を自称させて頂いています(笑)。

土屋  そうでしたね(笑)。とはいえ、そのようにお褒め頂いても事業化にあたってはやはり難しいところがあって、企業側が一定の理解を示してくれたとしても、次に「じゃあ、このサービスってどの会社が導入しているの?」という話になってしまう。まったく新しいサービスなのだから、前例は無いのが当たり前。日本人の特性なのかどうか定かではないのですが、この前例主義を突破するのが大変でした。

大原  事業会社もファンの存在を明確に意識する必要がある時代になってきたということかも知れませんね。クラウドファンディングという金融の仕組みも、ある意味、ファンを意識した資金調達手段と考えられなくもありません。資本市場という色のない世界に色をもたらしている。

土屋  これはいろいろな金融機関を見ていて思うのは、マーケティングが弱いということです。お客様のことを見ているようで見ていない、と正直感じることがよくあります。

私たちのサービスについて説明した時、金融機関の担当者に、どういう人を対象にして、どのようなゴールを考えているのか、そのゴールを達成した時、どのような効果を期待しているのかなどを逆に質問させて頂くのですが、明確に答えられる方がいません。ここに金融機関のマーケティングにおける弱点があると思います。

私たちはポイント運用のサービスを提供している会社ですが、資産運用会社ではありません。「所詮はポイントでしょう」と言われることもあるのですが、私たちはポイント運用で儲けさせてもらおうなどとは微塵も考えていません。それは私たちが目指すゴールではありません。本当のゴールはポイント運用を通じて、お客様が何かに気付いてアクションを起こしてくれることなのです。

少なくとも、ポイント運用が出来るからといって、自然にお客様がどんどん流入してきてくれるなんて幸せな事は絶対起こりません。お客様がぜひやってみたい、と思う、そんなエッセンスがないとダメ。そんな「マーケティング視点」を、金融機関のご担当と粘り強くディスカッションしてサービスにしていくことが大切なのです。

子供たちの世代により良い社会を残す

大原  製品やサービスを購入する側からすれば、行く店でスタンプを押してもらうのと同じように、ポイント投資を通じて好きな企業との距離が近づいていくのが良いと思います。

土屋  SDGsやESGなど、いろいろ言われていますが、STOCK POINTを通じて、自分が世の中にとって良い企業だと思うところに投資をする。この世界で生活をしていくのに意味があると思われる会社にポイント運用を通じて応援し、その結果として企業がより良くなれば、子供たちの世代に残す社会をより良いものにすることが出来ます。

それを実現するのに、私たちが出来ることは何かを考えることが、モチベーションにつながっていきます。

大原  これからどのような成長ストーリーを思い描いているのですか。

土屋  まずは日本国内に広げていき、次は海外展開ですね。すでに特許を取得している米国をはじめとして、特にアジア各国への進出も視野に入れています。

よく「競合はどこですか」という質問を受けるのですが、正直なところ競合らしい競合がいないのです。競合がいないから、私どものサービスに対するイメージが湧きにくく、「前例はないのですか?」という話になってしまいがちなのだと思います。ですから、まずはこのサービスを導入することでどのようなメリットが得られるのかをしっかり伝えていく必要があると考えています。

これまでの集客は、たとえばクレジットカードを1枚作ればそれで5000円のキャッシュバックが得られるというような、いわばバラマキ作戦を通じて展開されてきました。

でも正直なところ、この手のバラマキ作戦ではお客様を広げるにも限界があります。次の仕掛けが必要であり、その一端をポイント運用が担っていく時代になれればと思います。

とにかく弊社は、ユーザーのエンゲージメントが非常に高いという特徴があります。私のメルマガには、さまざまな質問がどんどん寄せられますし、アプリの再来率も非常に高い。こうしたユーザー層の違いをしっかり示していければ、サービスに対する理解も得られやすくなりますし、それがひいてはサービスの拡大にもつながっていくと考えています。

大原  ありがとうございました。

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