2022.11.09インタビュー

対談連載【金融ビジネス/これからの「顧客本位の業務運営」 No.15】株式会社継志舎 代表取締役 石脇俊司氏「信託のスキームを活用して個人の資産管理をサポートする」

石脇俊司氏(株式会社継志舎 代表取締役)
聞き手:長澤敏夫(株式会社日本資産運用基盤グループ 主任研究員)

(写真撮影の時だけマスクを外させて頂いています)

高齢社会の到来と共に、判断能力が低下した際に、その人の財産をどのようにすれば良いのかという点が、問題視されています。その問題解決法のひとつとして注目されているのが「家族信託」です。信託の組成をサポートしている株式会社継志舎代表取締役の石脇俊司氏に話を伺いました。

外資系金融機関で信託を学ぶ

長澤  まず、石脇さんのご経歴から教えて下さい。

石脇  外資系生命保険会社から金融のキャリアをスタートさせました。代理店営業です。最初はおもに会計事務所の代理店を担当していました。その後、その会社が国内損害保険会社の子会社となった関係で、損保代理店も担当するようになり、さらに地方銀行の関連会社の生命保険代理店へと広がっていきました。

会計事務所代理店や銀行の関連会社の代理店を担当していると、経営者や資産家の方たちとお会いする機会が多くなります。そんな経験から、資産の形成には金融商品が重要であることを感じ、証券会社で営業をしてみたい、また将来はプライベートバンカーのような働き方をしてみたいと思い、一念発起して証券会社に転職しました。

その頃は、証券会社も生命保険の提案を行うようになっていたので、最終役員面接では、保険部門希望かと聞かれたのですが、私はまずはリテール営業を経験してみたかったので、支店勤務を希望していると答えました。

当時、証券会社のリテール営業といえば飛び込みが当たり前だったので、役員の方も「大丈夫か?」という感じでしたが、私としては経験が無かったので、とにかく経験したいのですと言って、証券の世界へと飛び込みリテール営業を経験しました。

その後、金融商品仲介業が解禁されたことを契機に、社内公募に応募して金融商品仲介業の部門の立ち上げにも関わり、金融商品仲介業者を増やしていく業務も経験しました。

その後、スイスの金融機関が、日本でも金融商品仲介業のビジネスモデルを活用して富裕層へのプライベートバンクビジネスを行っていくということを聞き、そこへ転職しました。証券会社に転職した動機だった、将来、プライベートバンカーになりたいという思いをその金融機関で実現したいと考えました。

長澤  新しいことへのチェレンジの連続ですが、スイスの金融機関では希望通りの仕事が出来たのですか。

石脇  その金融機関では外部のパートナーが顧客の取引を仲介して行うプライベートバンクのビジネスを、香港やシンガポールで成功させていました。それを日本でも広げていこうとビジネスをスタートしたのですが、リーマンショックに直面し、日本の仲介部門を閉めることになり、外資系銀行の東京支店で富裕層顧客を担当する営業職に就きました。

スイスの金融機関で当時の上司から、「これからは日本で信託ビジネスが必要になるから勉強しておくように」と言われ、私も信託には非常に興味が持てたので、転職した後も継続して勉強していました。その後、その元上司は3年半をかけて免許を取得し信託会社を立ち上げ、営業開始に伴い再びその上司と働くこととなりました。

長澤  保険会社や証券会社、銀行等で様々な業務を経験されたのちに信託と出会いました。そこではどのような信託業務を行ったのですか。

石脇  富裕層を対象にして、信託会社に資金を信託してもらい安定的なポートフォリオ運用を提供するという信託業務を中心に行いました。その信託会社は、金銭の運用以外の信託業務の提供も可能だったので、私は中小企業オーナーに相続や事業承継に関連した信託の提供も行っていました。

家族信託の組成をサポートするビジネスに

長澤  そこから独立して継志舎を設立することになった経緯は何ですか。

石脇  信託会社は主にスイスの法人など外国資本がメインだったのですが、紆余曲折あり日本法人にM&Aされました。株主が変わった後、信託会社のビジネスモデルは大きく変わりました。

買収される以前は相続も含めてお客様に寄り添う形で、個々のニーズに合わせたオーダーメイドな信託の組成を行っていて、そこに私は魅力を感じていたため業務内容の変更はとても残念でした。今後どうしようか? と将来のことを考えなければならなくなったその時に、周りを見ると家族信託が取り組み始められていることを知りました。信託業務をやってきた者としては、当時の議論や信託の組成の仕方に何か危なっかしさを感じていました。

それなら、信託会社でのノウハウを使って、自分がサポート役として家族信託を広めていこうと思い、独立し、今の会社を立ち上げました。

長澤  家族信託と商事信託の違いを説明していただけますか。

石脇  ご存知の通り、家族信託は資産を有する人を委託者とし、委託者の家族が受託者となり信託財産を引き受けて管理していきます。資産を所有する人が高齢になり、自身で資産管理が難しくなっていくことに備えて利用されているケースが多いです(いわゆる認知症対策としての利用)。家族信託は、ほぼ信託契約により行われています。信託契約は公正証書にしておくのがよいのですが、公証役場が公表している信託契約の公正証書の作成件数は年間に3000件くらいです。ただ、公正証書ではなく私文書で信託契約をしているケースもあるので、推定すると年間1万件くらいは家族信託が組成されているのではと言われています。

商事信託は内閣総理大臣の免許・登録・許可を得た信託会社や信託銀行が受託者となって信託を引き受ける営業目的の信託のことをさします。信託会社や信託銀行の受託基準などもあって、資産所有者の個別の事情に対応したオーダーメイドな信託の組成は、商事信託ではその数が限られています。そういった点から、家族信託への期待は大きく、これから増えていくのだろうと考えています。また、最近では家族信託の数が増えてきたことで、商事信託の商品開発も進み、最近では魅力的な商品も出てきています。家族信託と商事信託が相乗効果を生んでいるのはよいことだと思っています。

家族信託がさらに普及していくには多くの課題があります。まず、一般の人にはなかなかなじみのない法律(信託法)も絡むだけに、誰もがすぐに理解できません。個別の事情に応じた信託契約をつくるのも非常に難しいです。税金のことも法律のことも、そして財産管理のこともいろいろと絡んできますので、誰もがすぐに家族信託を利用することもできません。難しいからこそ節に家族信託を利用したいと思っている方々への支援が必要になります。家族信託が必要な方々に寄り添った形でのサポートが必要です。信託に関する多くの専門的なことを理解したうえで、信託を希望するその人にとって最適な仕組みを発想することが欠かせません。

家族信託が注目されるようにもなってきたので、いろいろなところで「家族信託を取扱っています」といった話を聞きます。それはよいことなのですが、家族信託はそんなに簡単ではありません。たとえば、金銭を信託した際には、委託者が受託者に金銭を移転させることが必要です。そして、受託者はその金銭を分別管理することが必要になります。銀行に信託財産専用の口座(信託口口座)を作り分別管理していきます。現在では、信託口口座をつくれる金融機関がまだ少ないという問題があります。

不動産を信託する場合には、その不動産の所有者は受託者に変わります。もし、信託しようとしている不動産に抵当権が設定されていて、銀行がそれを担保に融資していた場合、当初の融資条件がまるっきり変わってしまうので、銀行によって認めてくれないケースもあります。

また信託をすると、いわゆる相続とは全く違った形で財産承継をすることになります。

普通の相続では、被相続人が亡くなった時点で、その財産は遺産になり、遺産は被相続人が亡くなった時点から、遺産分割が終了するまでは相続人が共有している形になります。遺言があれば、遺言に書かれている内容に沿って遺産が配分されます。遺言がなければ、相続人同士で遺産を分割する協議を行います。協議は難航することもあります。

信託すると、信託した人が持っていた資産は所有者が受託者に変わります。その結果、信託した資産は、委託者が所有する資産ではなくなり、受託者が所有する資産となります。信託財産は受託者が所有するため、相続とは違った手続きで承継されます。信託の委託者(多くの信託では委託者と受益者が同じ)が亡くなった時点で信託契約が終了するという信託では、信託契約に定められた人に信託財産を帰属させることができます。どうしても「この人」に「この資産」を渡したいという人への資産承継は、信託を利用する方法があります。

信託を利用して特定の人に資産を承継する方法をとると、遺留分侵害の懸念が生じます。問題が生じないよう、信託する人の財産の内容、家族の状況、信託する財産の状況を把握して、信託を検討していきます。

BtoBでコンサルティングビジネスも

長澤  家族信託を活用する場合は、たとえば総資産でいくら以上必要といった基準のようなものはあるのでしょうか。

石脇  それは特にありません。たとえば高齢になり認知症を発症してしまうと、本人は預金を引き下ろすことが出来なくなり困ってしまいます。また、施設に入所するなどの理由から自宅を売却したくても売却できなくなってしまいます。本人の判断能力がかなり低下している方の資産管理に成年後見人制度があります。この制度では、本人の資産管理を家族ではない第三者が行うことが多く、財産の活用も制限されてしまいます。家族としてはもう少し自由に財産を活用できる方法で、家族が資産を管理したというニーズがあります。このような家族のニーズから家族信託を選ぶケースが増えています。信託を利用した方が本人のため家族のために有効であるという場合には、財産額が少額でも家族信託を利用するとよいので、私は額の基準はないと考えています。家族のニーズに応じてさまざまな使い方が出来るので、ある程度財産がないと信託できないということではありません。

長澤  高齢社会になるにつれて必要な信託だと思うのですが、金融機関がもっと柔軟に対応できると良いですね。

石脇  そうですね。家族信託が型にはまった商品であればスムーズに流れていく部分もあるのでしょうが、現状では、個別の対応になり手間がかかります。手間がかかれば当然にコストもかかります。金融機関では、どこまで家族信託にコミットすれば良いのか、それがビジネス的に成り立つのかどうか、といった点で様子見しているところではないかと考えています。

長澤  御社のビジネスモデルですが、こうした家族信託のサポートもさることながら、他にもコンサルティングサービスを提供されているとのことですが、どのようなものですか。

石脇  不動産管理会社、証券会社、保険会社にコンサルティングや研修のサービスを提供しています。これは弊社が直接、お客様にアドバイスするのではなく、大勢のお客様を持っているこれらの会社がお客様に相続などのアドバイスを提供できるよう弊社が支援しています。資産家のお客様が高齢になっているので、土地やアパートや金融資産をどう相続するのかというニーズがたくさんあります。

これらの会社が、自社内にアドバイスを行う専門部署をつくりたいというニーズがあり、弊社がアドバイスのサポートをしたり、研修を行ったり、実務フローを作成したりといったことをお手伝いしています。

長澤  地方銀行やメガバンクでも、お客様が相続、事業承継で悩んでいるというケースが増えていると思うのですが、そうしたニーズへの対応は考えていますか。

石脇  そうですね。そこのニーズはかなりあると考えています。しかし残念ながら弊社のマンパワーの課題があり、現状では対応できていないところもあります。たとえば銀行の全支店に対して弊社がサポートできるかというと、現状ではいささか難しい部分があります。

ただ、私たちも単独でビジネスを行っているわけではなく、さまざまなパートナー会社がありますから、そこと連携をはかりながら対応していくという手はあると考えています。

お客様との信頼関係を構築するため必要なこと

長澤  個人のお客様は、どういう層が多いのですか。

石脇  弊社の特徴としては、中小企業経営者のお客様が多いです。自社株の相続をどうするのかというお悩みです。それは上場企業のオーナー経営者さんも同じで、弊社は上場企業のオーナー経営者の方にもサービスを提供した経験もあります。また、不動産の管理と承継についてのニーズもあり、地主の方もいらっしゃいます。

長澤  恐らく、上場企業や中小企業のオーナーさん、地主さんのところには、たくさんの金融機関、プライベートバンカー、コンサルタントなどから、さまざまな提案が持ち込まれると思うのですが、こうなると誰を信じたら良いのか分からなくなる、なんてケースもありそうですね。お客様からの信頼を勝ち得るために、石脇さんが工夫されていることは何ですか。

石脇  税理士、不動産関係の方、保険関係の方からのご紹介で新しいお客様にお会いするケースが多いのですが、初めてお会いする方には「守秘義務誓約書」をお持ちするようにしています。これは、私のお客様に対するスタンスなのですが、お客様の思い、資産に関することなどお客様からうかがう大切なお話は誰にも一切漏らしませんということをお客様に私がまずお約束するというものです。それをお渡して私のお客様に対するスタンスをお知らせすることで、初めてお会いする方でも結構、いろいろな話をして下さいます。私としては、提案する、提案されると言う関係ではなく、お客様の隣に座って、そこで一緒に課題解決にあたるという役回りでいたいと常々思っているので、そのスタンスを明確にするうえでも、守秘義務誓約書を差し入れるようにしています。

長澤  お客様に選ばれる資産運用アドバイザーになるためには、何が必要でしょうか。

石脇  営業をする以上、営業成績はもちろん大事なのですが、お客様のニーズはそれぞれ異なります。まずは現状を把握し、整理し、課題を抽出して差し上げることが大事だと考えています。

弊社は家族信託の組成の支援をサービスとして提供していますが、お客者の状況から信託を必要としない方もいらっしゃいます。お会いする方にすべて信託の利用を提案するのではなく、お客様の状況や希望に合わせて必要な仕組みを検討していくことが欠かせません。

そのうえで、お客様一人一人に合った資産配分を考え、ご提案する。それをしっかり行っていけば、お客様とのお付き合いも長くなるし、そこから紹介していただけるケースも自然と増えていきます。

お客様との信頼関係を構築するには時間がかかりますが、その信頼をいただいたうえで、精一杯の仕事をする。それがお客様に選んでもらえるポイントになると思います。

長澤  ありがとうございました。

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