2023.03.09インタビュー

【金融ビジネス:対談連載】これからの「顧客本位の業務運営」 No.17 プロフェッショナルとしての自覚を持ってお客様と対峙する

岩城みずほ氏(みんなのお金のアドバイザー協会(FIWA)副理事長)
聞き手:長澤敏夫(株式会社日本資産運用基盤グループ 主任研究員)

(写真撮影の時だけマスクを外させて頂いています)

2019年10月に設立された「みんなのお金のアドバイザー協会(FIWA)」。金融商品を販売せず、アドバイスのみを提供するアドバイザーの集団として、注目を集めています。中立的なアドバイザーの養成が必要とされる昨今、同協会が目指すところは何か、FIWA副理事長の岩城みずほさんにお話を伺いました。

金融商品を販売しないアドバイザーの見える化を進める

長澤  「金融商品を販売しないマネーコンサルタント」として2019年にFIWAを設立し、昨年から金融審議会市場制度ワーキング・グループの「顧客本位タスクフォース」の委員としても活躍されています。まず、FIWAを立ち上げた経緯からお話いただけますか。

岩城  私がFPとしてお金のアドバイスをするようになったのが2009年からです。いろいろなお客様から相談を受けたのですが、「こういう商品をFPに薦められて買ったものの、保険料が高すぎて逆に貯蓄ができず不安になった」といった、セカンドオピニオンを求められるものが結構たくさんありました。

そこで、お客様が勧められて買った商品の中身を私の方で調べてみると、手数料率が極めて高いとか、適合性の原則から見て望ましくないような商品を買わされているケースが散見されたのです。

でも、いざ解約しようとなると、中途解約手数料が高く設定されているために元本割れしてしまう。それを知ったお客様は、どうしてこんなものに手を出してしまったのだろうと激しく後悔し、不安に苛まれてしまう。その様子を見ていて、これは一体どういうことなんだと、疑問に思うようになりました。

皆が幸せになるために金融商品は存在しているはずなのに、どうして不幸にならなければならないのか。どこに問題の根源があるのか。そのようなことを突き詰めて考えるなかで、顧客本位のアドバイスができるアドバイザーが必要だと思うようになるのと同時に、金融商品を販売しないアドバイザーを見える化する方法はないかなどを考えるようになったのが、FIWAを立ち上げることになった一番の理由です。

長澤  FIWAを立ち上げたのが2019年10月。3年と4カ月が経ちましたが、どのような苦労がありましたか。

岩城  いろいろ紆余曲折がありました。お客様の課題解決の先に金融商品販売が紐づいているアドバイザーが大半を占めているこの業界で、金融商品を販売しない、純粋にお客様へのアドバイスだけでビジネスを成り立たせることのできるアドバイザーは、非常に少数です。そのため、FIWAの立ち上げを高らかに宣言したものの、賛同者がいないという状態からのスタートでした。

金融業界からの反発もかなりありました。実はちょっとした誤解が生じていて、私たちが頭から金融商品の販売そのものを否定しているように、受け止められていたようなのです。

それは本当に誤解で、金融商品の販売という職業自体を否定しているつもりは全くありません。金融機関の窓口で投資信託などを販売する人は、販売のプロとしての仕事がありますし、どういう商品を選ぶべきなのかをアドバイスする人は、アドバイスのプロとしての仕事があります。それぞれが専門家としての倫理観を重視し、スキルアップを図っていかれれば良いのではないでしょうか。

ただ問題なのは、アドバイザーが金融商品を販売することによって、お客様との間に利害相反が起きることです。どうしても販売することで得る手数料欲しさにアドバイスがセールス・トークになってしまう傾向がある。だからこそ、アドバイザーが金融商品販売と紐づかず、純粋にアドバイス・フィーで食べていける方法、仕組を真剣に考えていくことが大事だとも考えています。

合理的なアドバイスを受けることの大切さを知る

長澤  FIWAの会員制度はどのような形になっているのですか。

岩城  「FIWA認定正会員」と「FIWA准会員」という2つの区分があります。正会員は金融商品を販売せず、フィデュシャリー・デューティ宣言をすること。FD宣言については、金融庁に届出することを推奨しています。また、アドバイス料などの料金体系、その決定方式をホームページで公表することといった条件をクリアする必要があります。

これに対して准会員は、金融機関に所属しているものの、顧客優先、忠実義務などFIWAの定める准会員のための倫理規範および職業行為基準を遵守することを誓った者に対して与えられる称号です。金融機関に所属する人をすべて排除しているわけではなく、プロとしてお客様にしっかり向き合う方には准会員として活躍していただきたいと思っています。

長澤  金融機関に所属して日々、お客様に向き合っている人のなかにも、お客様のことを第一に考えてアドバイスしたいという方もいると思います。そういう方からの相談などもありますか。

岩城  最近は「顧客本位タスクフォース」の議事録を読まれた方からの相談が増えています。皆さん、顧客本位を貫きたいと思っているものの、どうしても所属している金融機関から販売目標を課せられたり、マネタイズすることが難しかったりして、どうすれば良いのかを模索していらっしゃる方は多いと思います。

ただ、最近は販売目標を課さない金融機関が、少しずつとはいえ現れ始めているので、それは良い傾向ですし、販売目標を設定せずに、いかにしてモチベーションを高め、売上につなげているのかといった点は、共有させていただきたい情報のひとつです。

あと、アドバイスする側がお客様ファーストのスタンスを取り続けることはもちろん大事ですが、同時にお客様も、コスト意識を持つことに加え、不適切なアドバイスを受け、それに基づいて金融商品などを購入すると、非常に大きな不利益につながることをしっかり認識する必要があります。大きなコストは大切な老後資金の流出になるのです。

誰にとっても資産運用が必要な時代に

長澤  資産形成をするお客様の意識は、ここ数年で変わりましたか。

岩城  10年前には考えられませんでしたが、20代、30代の人が金融や資産形成について熱心に学ぶようになりました。それこそ最初にお金を払ってでも、合理的な資産形成を学んだ方が、後々有利になることを理解していらっしゃいます。また、かつてライフプランや資産運用アドバイスは無料で提供されるものと考えられていましたが、最近はちゃんと対価を払うものと考えている人が増えています。そこは本当に大きな意識変化だと思います。

このような意識変化が生じてきたのは、やはり人生100年時代と言われるように、人間の寿命が延びてきたからだと思います。昔は80歳くらいまで生きることを前提にしたライフプランで十分でしたが、今は100歳くらいまで生きるのが大前提です。それだけ老後のお金も必要になりますし、インフレも進んでいます。誰にとっても資産運用が必要な時代になってきたのです。

また、単にお金を投資して運用するだけでなく、自分はどのような働き方をすれば良いのか、公的な社会保障制度がどうなっているのかも理解したうえで、自分自身のライフプランに合わせたマネープランを立てることが大事になってきたのですが、残念ながら、そういう幅広い視点でアドバイスができるアドバイザーが非常に少ない。ですから、個人の方々のニーズの高まりに対して的確に応えていけるように、アドバイザーの質を高めつつ、アドバイス業務に携わる人を増やすことも大事です。これはFIWAにとってとても大切な仕事です。

生活者が資産運用を始めたいと思い立っても、現状ではアドバイザーの数自体が少ないので、どこに相談すれば良いのか分からないという人が大勢いらっしゃいます。だからこそ中立的なアドバイザーを増やして、誰もがいつでも自分の望む形でアドバイスを受けられる仕組みが必要です。

長澤  金融機関は民間企業ですから、収益を稼ぐことも大事です。お客様の利益を第一に考えることはもちろん大事ですが、この両者のジレンマをどのように整理すれば良いのでしょうか。

岩城  顧客本位を実現するため、金融機関の中には販売目標の設定を廃止しているところもあります。

どうしてこれまでの日本は、諸外国に比べて家計部門の貯蓄の増え方が遅かったのか。それは顧客本位のビジネスをしてこなかったからです。そのことに国民も気付き始めています。

実際、「金融機関の言うことを信じてはいけないのではないか」、「アドバイザーは金融商品を売りつける人たちではないか」という認識が、国民の間に広がっています。

だからこそ、金融機関は顧客本位がどういう意味を持つものなのかを、今一度しっかり考えてみる必要があるでしょう。

顧客本位を貫くため、販売目標の設定を止めた金融機関はいずれも苦戦しているのが現状ですが、ここが踏ん張りどころです。顧客本位に徹することが、最終的に生き残ることにつながるという成功体験を持つことが出来れば、恐らく金融機関の販売スタンスも大きく変わっていくと思います。

そもそも金融機関に勤めている人は、常にお客様と接していますし、高度な知識も持ち合わせています。ですから、これに「倫理観」をプラスして、プロの販売員としての職業倫理などを考えていただければ、経済は必ずや健全な成長へと導かれていくでしょう。そういう時期だからこそ、本気で顧客本位に取り組んでいく重要性が高まっているのです。

お客様から選ばれるアドバイザーになる

長澤  FIWAでは会員を集めてさまざまな勉強会も行っていますが、どのようなアドバイザーを育てていきたいと考えていますか。

岩城  よく「FIWAの会員になることで食べられるようになるのでしょうか」などと質問されることがあります。

ただ、巷によくある「●●養成塾」のように、FIWAの認定を取ったからと言ってすぐに仕事がもらえるということにはなりません。そのような目先の仕事を取れるかどうかの前に、私たちは活動を通じて世の中を変えていこうと考えています。

私たちの考え方に共感できる人には、いつでも仲間になってもらいたいですし、勉強会は毎月開催しておりますので、それに参加し続けていただければ、知識やスキルが身に付きます。それに加えて能力、スキル、倫理観を高める努力をし続ければ、お客様に選ばれるアドバイザーになれるはずです。

私事ですが、今から10数年前にコンサルテーションをしたお客様がいらっしゃるのですが、それから幾年月が流れて定年を迎えられました。この間、一度もお目にかかっていなかったのですが、ひょんなことで私を思い出して下さり、相談に見えられました。「岩城さんのアドバイス通りにして良かった」とおっしゃって下さったのですが、そのくらい時間をかけてようやく成果というか、お客様に満足していただける仕事です。そういう仕事をしたいとおっしゃる方には是非、FIWAの門を叩いていただきたいと思います。

長澤  最後に、金融機関に所属していても何とかして、お客様のためになりたいと考えている人も結構いらっしゃると思います。何かメッセージをいただけますか。

岩城  アドバイザーも販売員も倫理観を持ったプロフェッショナルになっていただきたいと思います。金融商品を販売するのであれば、販売のプロに徹して、お客様にとってベストの商品を勧められるようなプロになって欲しいと思います。

当然、お客様は金融商品を購入する際には、販売員を通じて金融商品を購入します。そのようなお客様が、「この販売員は私にベストの商品を販売してくれた」と思ってくれれば良いのです。

長澤  ありがとうございました。

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