2023.06.09インタビュー
【金融ビジネス:対談連載】これからの「顧客本位の業務運営」 No.19 投資助言業+金融商品仲介業で新しい金融サービスを実現する
濵島成士郎氏(株式会社WealthLead 代表取締役)
聞き手:長澤敏夫(株式会社日本資産運用基盤グループ 主任研究員)
多くのIFA会社がなかなかコミッションビジネスから脱却できないなか、会社の設立当初からフィービジネスに特化し、商品ではなくアドバイスを売るビジネスを確立させつつある、株式会社WealthLead。その代表取締役である濵島成士郎さんに、フィービジネスに拘る理由、アドバイスの内容などについて伺いました。
バブル期に証券会社に入社
長澤 濵島さんは証券会社勤務を経て、株式会社WealthLeadを立ち上げられました。独立するに至った経緯は何だったのですか。
濵島 最初に入った会社は新日本証券、今のみずほ証券です。ちょうど日本経済がバブルに差し掛かった頃で、株価はどんどん高値を更新していました。
当時は株式委託手数料が自由化される前でしたので、証券会社の営業担当者といえば、株式委託手数料をどれだけ稼げるのかが、最優先課題でした。それに加えて、投資信託の募集額にもノルマが設定されていて、完全に達成しなければならない。とにかく数字が人格と言われた時代でした。
自分たちの手数料を上げるためなら、お客様の都合は二の次になっていました。たとえば毎月第一営業日は手数料キャンペーンが行われ、各営業担当者には手数料目標が設定されます。未達は許されませんから、営業担当者は自分なりに知恵を絞って数字を作りに行きます。たとえばキャンペーン当日の1週間前くらいから予約注文を取りに行ったりするのです。
そして迎えたキャンペーン当日。その頃の私は神戸支店に配属されていたのですが、支店全体で4000万円以上の手数料を上げたこともありました。
それは会社員として高い評価につながるわけですが、よく考えてみると、お客様の意向やマーケットの動向は考慮していません。キャンペーン当日の数字をつくるために、お客様に売買させるわけですから。
私もそのような証券会社内での出世競争に身を置いていましたので、人一倍、手数料を稼いでいたのですが、もやもやした気持ちを抱えながら仕事をしていたのも事実です。そのもやもやした気持ちが高じて独立に至りました。
証券会社のビジネスモデルに抱いた疑問
長澤 何か直接的なきっかけはあったのですか。
濵島 横浜で支店長を務めていた時、3年目の若手社員が泣きながら「辞めます」と言ってきたことです。当時、クーポンが高いブラジルレアル債の販売に注力していたのですが、彼女はお客様のお役に立てると思って、ブラジルレアル債を提案していました。ところが、ある時ある人に「ブラジルレアル債を重点的に販売するのは手数料が高いから」と言われたそうです。とても真面目な人柄だったので、そのギャップに悩んでしまったのです。
加えて当時、グループの銀行、信託銀行、証券会社が連携してお客様に対応していこうという動きのなかで、決算期末に近づくと、グループ内の連携先から「手数料を稼いでくれ、収益性の高い商品を販売してくれ」と言ってくる。自分の上司からだけでなく、周囲からもプレッシャーが来ることに対して疑問を持っていました。
また、本社から支店に下りてくる目標数字は上がる一方でした。お客様からの預かり資産や営業担当者は増えていないのに、目標数字だけが上がっていくのです。
このような状態が続くと、無理な営業をして事故につながる可能性もあります。それはお客様のためにならないし、そもそも証券会社のコスト構造やリテール営業のビジネスモデルに問題があると思うようになりました。これが起業しようと思ったきっかけです。
長澤 証券会社のビジネスモデルのどこが大きな問題なのでしょうか。
濵島 証券会社の営業店で販売の最前線に立っている人たちの中で、自分の仕事に誇りを持っている人はどれくらいいるでしょうか。恐らく、少ないのではないでしょうか。きっと、自分が働いている職場を、これから社会に出ようとしている後輩、親戚の子に対して胸を張って薦められる人は、こう言っては何ですが、あまりいないと思います。多くの人が、「こんなことをやっていいのだろうか」と疑問を抱きながら、日々の仕事をしているのが現実だと思います。
お客様にお勧めする商品も、お客様のニーズを伺って、それに合った商品やプランを提案するのではなく、販売しなければならない商品とその販売目標があり、何が何でもその数字の達成を求められます。場合によっては、「このお客様にこの商品は合わないかもしれない」と思いつつ営業しているケースもあると思います。それでも、サラリーマンとしては会社から求められることをやることが正しいのです。
こうした証券会社のビジネスモデルに対して疑問を感じていた矢先に、先ほども触れましたが、部下が泣きながら辞表を出して辞めていきました。この時、証券会社での営業に疑問を感じて悩み、辞めていく人たちをまとめて引き受け、真の意味で顧客ファーストな会社を立ち上げられないかと思ったのです。悩める証券営業パーソンを1人でも多く救いたい。こうした想いで投資助言業を核としたWealthLeadを立ち上げました。
ファンドマネジャーに面談して投資信託を選定
長澤 投資助言業からのスタートということですが、日本人はなかなかアドバイスなどのサービスにお金を出さない傾向があると言われます。スタート当初の反応はどうでしたか。
濵島 5年前に創業したのですが、投資の助言などにお金を出す人なんていない、と大勢の方から言われました。バカ呼ばわりされたこともあります。
でも、この2年くらいで状況が変わってきたと実感しています。特に若い世代ですが、年金問題をはじめとして老後に対する不安感が高まるなかで、資産形成に対する関心が高まってきているのと同時に、有益な情報にはお金を出すという人が増えてきました。
長澤 具体的にどのようなアドバイスをされているのですか。
濵島 ゴールベースアプローチとオーダーメイド、国際分散投資が、私たちのポリシーです。一人一人のお客様のために、オーダーメイドで資産形成・資産運用のプランニングをさせていただきます。
証券会社で長年働いて得た結論のひとつは、どれだけ分析して厳選したとしても、結局のところ、株価が明日どうなるのかは分からないということです。そうである以上、個別銘柄の短期トレードで勝ち続けることは不可能です。だから、最初から幅広いアセットクラスを対象に、国際分散投資を前提にした長期投資をベースにした助言を行っています。
お客様は、これから資産を形成していく人と、すでに資産を築き終えていて、それを活用していく人に二分されます。前者に対しては投資信託をメインに、後者に対してはETFをメインにポートフォリオを組んでいきます。
長澤 投資信託やETFについては、どういう視点で個別商品をピックアップして、お客様に勧めるのですか。
濵島 投資信託に関しては、アクティブ型とインデックス型を組み合わせて提案させていただきます。国内株式への投資は基本的にアクティブ型、先進国株式や新興国株式はインデックス型を中心に選んで組み合わせます。
アクティブ型については過去の運用成績や信託報酬などのコストをチェックするのはもちろんですが、私たちが直接、運用者に面談を行って運用体制や運用ポリシーを伺い、再現性があるのかどうかをチェックしています。特にアクティブ型の場合、運用者の考え方が銘柄選択に色濃く出てくるので、最終的には「人」を見るようにしています。
インデックス型はもう少し単純で、運用資産残高の多寡と信託報酬などのコストを見ています。できるだけシンプル、かつローコストな商品を選ぶようにしています。
あと、ETFはインデックス型に加えスマートベータ型も組み入れますが、こちらは上場モノなので流動性も重視しています。
M&Aのアドバイスも
長澤 最近は運用だけでなく事業承継に関するアドバイスもされていると聞きました。
濵島 弊社のお客様は中小企業経営者が中心です。日本では十分な投資教育が行われてこなかったので、実は経営者でも驚くほど金融関連の知識を持っていなかったりします。資産運用・資産管理はプロに任せて、ご自身は経営に注力された方が効率的であり、生産性向上につながります。そこで、多くの経営者の方に資産運用のアドバイスをさせていただいているのですが、「後継者をどうするか」という課題を抱えている中小企業経営者が多いと感じています。
だから、中小企業をメインにしたM&Aのコンサルティング会社が非常に伸びているのですが、聞くところによると強引な営業も目立つようです。例えば、何が何でも契約書にハンコを押させようとあの手この手で営業攻勢を仕掛けたり、経営者の意向を顧みずにM&Aの成立だけを目指して突っ走ったりという話を聞きます。それならまだしも、売るつもりもないのに、いつの間にか売りたがっているなどという情報が流されていたという話も聞きました。
実際に酷い目に遭った人もいれば、営業攻勢に辟易していらっしゃる方もいて、そういった方たちから、「M&Aの相談にも乗ってくれないだろうか」という声が寄せられるようになり、微力ながらお手伝いをさせていただいています。
M&Aの話は自分の会社の社員には絶対に話せませんし、銀行にも言いにくい。多くの中小企業経営者が誰に相談すれば良いのか困っているのが現状です。そこで、資産運用のアドバイスを通じて築いた信頼関係がベースになり、M&Aのご相談が増えているのです。
投資助言業+金融商品仲介業のビジネスモデルを確立
長澤 投資助言業からスタートされて、昨年は金融商品仲介業者のライセンスを取得されました。その狙いはどこにあるのですか。
濵島 独立を考えた時に最初はIFAで行こうと思ったのですが、よく考えれば一般的にはIFAもコミッションが収益の源泉であり、これでは証券会社と根本的には変わらないと思いました。一方、米国のリテール証券分野ではRIA(公認投資助言者・登録投資顧問業者)が主流になりつつあり、このビジネスモデルこそ自分の想いを達成するのに最も近いと考え、投資助言業からスタートすることにしました。
ただ、投資助言業にはひとつ課題があります。それは助言しかできないということです。私ができるのは、あくまでも助言のみ。実は、弊社のお客様のうち8割の方は資産運用の初心者です。国際分散ポートフォリオを組む関係上、銘柄数もそれなりに多くなりますが、ネット証券での注文発注や口座管理については金融リテラシーに加え、ある程度ITリテラシーも必要です。私からのアドバイスをご自身で執行、管理まで完結できる方はほとんどいらっしゃいません。
そこで、私たちが横について一緒に発注するか、オンラインで画面共有しながらサポートするのですが、お客様にはお手間をおかけしますし、時間も取っていただくことになります。それをお客様の数だけ繰り返すわけですから、私たちも手間と時間がかなりかかっていました。
この問題を何とかしなければと思っていた時、管理口座の仕組みを提供しているインターネット証券があることを知りました。管理口座を使えば、お客様からコミッションをいただくのではなく、管理している資産残高に応じたアドバイスフィーでマネタイズすることができます。
ただ、管理口座を使えるようにするには、金融商品仲介業者のライセンスを取得しなければなりません。そこで予備申請から1年半もかかりましたが、金融商品仲介業者としても登録したのです。
投資助言業と金融商品仲介業のライセンス両方を取得しているのは私たちだけではありませんが、一人の担当者が助言から銘柄の発注、口座管理まで一貫して行うのは弊社が初めてです。投資助言業+金融商品仲介業の仕組みを確立したことによって、商品を販売・売買する都度のコミッションではなく、お客様に助言を行った上で預かり資産連動のフィーを頂く、顧客本位のビジネスモデルが出来たと思っています。最近は、弊社のビジネスをご理解いただけるよう、「あなたが欲しいのは金融機関が勧める商品ですか?あなたに合ったアドバイスですか?」というキャッチフレーズを使っています。
長澤 最後に、証券業界で頑張っている若手に向けたメッセージがあればお願いできますでしょうか。
濵島 やはりお客様のお役に立つことを念頭に置いてビジネスをしていただきたいと思います。
会社員としては、会社から言われたことをしっかりこなさなければならないのは当然です。しかし、単品押し売り営業はして欲しくありませんし、会社から言われた商品を販売するに際しても、個々のお客様に応じてどこまでの金額を買っていただくのが適正なのか、その商品を購入していただくことが、本当にそのお客様のためになるのかを、考えていただきたいと思います。
このままだと日本は人口減少によって、どんどん経済的に貧しくなってしまいます。この状況を跳ね返せるとしたら、それは投資の力をおいて他にはありません。そのことを念頭において、一人でも多くの人が投資に関心を持ってくれるようにする。それが証券業界に携わる人たちの使命だと思います。
長澤 ありがとうございました。
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